海をあげる

理事推薦本
上間陽子 著『海をあげる』
(筑摩書房 2020年)

 この本は基地問題や地位協定で一緒に活動している仲間の方から紹介された本で、彼は厚木基地や沖縄の問題などつねに考え、行動しています。今朝、読み終わって涙が出るほど感動して、さあ書くぞと思いながらパソコンを開こうと、ふと、新聞(1/11付けの東京新聞朝刊)を広げたらルポライターの鎌田慧氏の書評が掲載されていてがっかり。でも私の書評をしっかり書くことにします。
著者は沖縄出身で琉球大学の教育学の教授、Ed.ベンチャーでもお話を伺った本田由紀先生と本を書かれたりして、特に女性や若者達の問題を調査研究されています。
はじめ、夫に自分の友達と浮気され、食事も喉に通らない話が出てくるので、そういう話なのと少々がっかりしましたが、そんなことは全くなく、離婚の過程も結構面白い。
その後沖縄に帰り、東京での無責任な言葉に触発され、何としても普天間基地の近くに住むと決心し、現在も子育てをしながら爆音にもめげず(大和と同じ)生活されています。
文章全体は内容にもかかわらず優しく、たおやかで、何故か初めて触れるような感覚を覚えますが、それでいて何とも苦しく、息が詰まり、何度もごめんなさい、ごめんなさいと叫んでいる自分に気がつきます。沖縄に正面から向き合い、ご自分の娘(4歳)にも一つ一つ話をし、基地の戦いにも連れていく。シールズの元山仁士郎さん(神奈川でも彼に来ていただいたことがありますが、会場の人数の少なさに、沖縄についで米軍基地が二番目に多い県で何ですかと怒られたことがあります。)がハンガーストライキを宜野湾市の市庁舎前で行った時も一緒に励ましている。幼い娘に話しかける言葉も、私はどんなことを子どもに話したのか、反省もし何も話してないことに気づきました。
 未成年者で母親になった女性の聞き取りや支援。戦争中の住民がどう逃げまどったかの実態調査、そして2016年に起きた海兵隊員による少女暴行殺人事件から性暴力の問題に取り組んでいます。マスコミを通しての表面的な沖縄は誰もが知るところですが、「沖縄っていいところですね。」と好意でかける言葉がどれ程沖縄の人達を傷つけることか思いしらされます。神話や習慣も含めて本当の深い沖縄を知ることができたと思いました。
 「海をあげる」という題は辺野古の埋め立てを通して、どんなに反対しても緩い地盤の上に、生物の宝庫の海に基地をつくろうとするなら、そんな海はあげるという絶望的な言葉です。
沖縄はいつまで犠牲になり差別されるのかと著者は言います。薩摩藩の琉球審判依頼沖縄は常に本土の犠牲になってきました。勿論沖縄戦しかり、昨今のコロナしかりです。これは沖縄の人の問題ではありません。私達一人一人、きちんと向き合わなくてはならないことです。(TT)