5・6月 喧嘩の意味を考える

喧嘩の意味を考える

 ある日の教室の休み時間、違う学校に通う4年生のR君とY君との間に事件が起きました。

 Y君が持って来たおもちゃのメダルで、二人が他の年下の子どもたちと遊んでいた時です。そのメダルをY君がR君に貸すことになりましたが、いつ貸すかをめぐる些細な誤解がきっかけで言い合いになりました。その中でY君が発した罵りの言葉にR君が「キレて」、Y君の胸ぐらを掴んだところを、その場にいたスタッフが止めに入る、ということが起きたのです。
 別のスタッフが、興奮して「もう俺帰る!」と怒りながら帰ろうとするR君を引き留め、話を聞きました。「今日貸してくれる約束なのに、急にダメと言われた。理由を聞くと悪口を言ってきた」。話は学校のことに及び、「学校では皆自分を無視したり押したりする。理由は分からない。いつも喧嘩になる。学校は好きではない。行きたくない」。一方Y君は、涙を流し座ったまま動きません。そのY君に、喧嘩を止めに入った外国人の学生スタッフはこんな話をしました。「Rの暴力は悪いが怒るのは分かる。自分も小学生の時同じ様な悪口を言われた。理由も分からず言い返せず辛かった」。するとY君は少しはっとした表情になり、最後にそのスタッフが「仲直りしたい?」と聞くと、彼は静かに頷いたそうです。
 Y君は教室ではいつも、日本語獲得が十分ではない年下のいとこたちと一緒にいます。年長で日本語ができるという「力」が及ぶ範囲に関係を限定すれば、自分の優位性を保てるからです。Y君はその関係の中にR君を入れようとしました。一方R君は、言葉で勝てないことの苛立ちに加え、「勝てない」ことを認めたくないために、学校でと同様に文字通りの「力」を使ったのでした。どちらも自分が下位に置かれないためのやり方です。外国人の子どもが自分を守るために、日本人が圧倒的多数の日常の中で否応なく身につけるしかなかった、位置取りをめぐる格闘方法なのだと考えられます。
 結局その日は仲直りはしなかったのですが、R君は「帰る!」と言いながら最後まで残りました。学校では得られない、何かしらの他者との関係をこの教室に求めているのでしょう。翌週、二人とも教室に来て一緒に遊ぶだけでなく、Y君は「Rは親友だ!」と言ったそうです。その後もY君は、R君が休むと「Rは来ないの?」と聞いてきます。外国人青年が話した内容をY君なりに受け止め、今までと違う他者との繋がり方を試し始めたのかもしれません。教室は週1回だけですが、彼らの日常の苛立ちを想像しつつ、二人がどのような関係を築くのか、今後も見守っていきたいと思います。(I)