7月言葉をめぐる様々な「壁」

今回は子どもたちの様子から垣間見える、「言葉の壁」について考えてみました。
 子どもたちの学びにとって、言語はとても重要です。日本で生活する日本人は、外国にルーツがある子どもたちに対して「とにかく日本語の学習を、」と考えます。しかしどのような言語であってもその習得は容易ではありません。教室に通う子どもたちの様子を見ていると、言葉は単に言葉の問題だけでなく、子どもたちの生活、学び、将来など、ありとあらゆることに深くかかわっていることが分かります。子どもたちにとっての「言葉の壁」は、大人(日本人)にとっての「壁」でもあります。この壁を乗り越える努力は子どもたちだけでなく、大人たちの側にも同じように求められるのではないでしょうか。

遊びの中で見えること
 エステレージャでは、勉強と勉強の間に20分間の休憩時間があります。以前は外で遊ぶことが多かったのですが、気温が上がったこともあり、外で遊ぶ回数が減りました。最近は教室の中で話をしたり遊んだりする光景をよく見ます。そのこともあり、外で鬼ごっこなどをして遊ぶと、子どもらしさを感じます。いくら暑くても子どもたちは外に出ると元気いっぱいに走り回り笑顔を見せてくれます。これだけ楽しそうに遊ぶのですか学校でも同じだろうと思うと、そうでもないようです。外国にルーツのある子どもの中には、授業の話の内容についていけず(言語の壁)、そのために授業内容が分からないことが多く、勉強ができる振りをしてしまうこともあります。授業についていけず自信がなくなり、友だちともなかなか関わろうとしない子もいます。子どもに話を聞いてみると、学校の休み時間は教室にいたり、図書室にいたりすることが多いようです。中・高学年になると勉強の量が増え、先生も授業時間内に終わらそうとすると、やはり早口になるのかもしれません。この子たちの「何と言っているのかわからない」という声が少しでも少なくなり、先生の言葉が分かるように、先生にはゆっくり話してもらえたらと思っています。ゆっくりと話すということだけでも、もしかしたら子どもたちが分かることが増えるかもしれません。

自分の言語
 エステレージャ教室には、スペイン語、タガログ語、英語を母語とする子どもたちがいます。ある小学校高学年の男の子はスペイン語を母語としています。日本語が嫌いで、ユーチューブで英語を学びました。子どもの学習力は素晴らしいもので、独学で英語を話せるようになったようです。男の子は、教室に来ても日本語の勉強を拒みます。とくに日本語を書く勉強が大嫌いです。日本語を全く学習しようとしないため、スタッフ同士でも話し合いました。結果、無理に日本語で学力を身につけるのではなく、本人が好きな英語で知識を覚えられればいいのではないか、ということになりました。
 そこで本人に、まずは英語と日本語のどちらで勉強していきたいかを尋ねると、「ん?」という反応でした。まだ、小学校高学年のため、自分が英語と日本語どちらで勉強していきたいかということについては考えてこなかったのだと思います。嫌々ながらも、少しは日本語の勉強をしているので、これからも様子を見ていきます。自分の学習する言語を決めるという感覚は、日本人の私にはわかりません。ですが、子どもたちがそんな壁に当たった時は、そばで一緒に考えていきたいと思います。(T.B)