12月理事推薦 榎本博明著『ほめると子どもはダメになる』(新潮新書 2015年)
タイトルに惹かれてこの本を手にしました。「ほめて育てる」という言葉をよく聞きますが、自分自身はほめることが上手ではない。そんなこともあり、この本を読んでみました。
「ほめて育てる」教育論が、20年ほど欧米から取り入れられ日本に広まり流行したそうです。叱らない親、叱らない教師、叱らない上司など、大人は子供を叱らなくなり、叱れなくなりました。叱られない子どもたちはすぐに傷つく、厳しく注意されるとひどく落ち込んだり、学校や会社に行けなくなったり、逆ギレするそんな姿が目立つようになっていると言われています。
著者は、「ほめて育てる」教育論を否定しているのではなく、欧米と日本の社会の違いを理解しないで日本が受け入れてしまっていると指摘しています。欧米と日本の社会の違いからくる親子関係を比べ、「ほめて育てる」教育がなぜ欧米社会で有効なのかということを説明しています。自律的な強い人間へと鍛え上げる厳しさが根底にある父性社会の欧米と、どんな人間をも丸ごと包み込む優しさが根底にあり、それゆえ甘えが通用する母性社会の日本という違いを見逃して「ほめて育てる」教育論を取り入れてしまったと説明しています。
また、社会に適応する力を育てることが大人の役割であるはずだが、ほめることばかりで叱らないために、忍耐力、頑張る心を身につけないまま若者は大人になっている。「子どもに好かれたい」という自己中な思いから「ほめて育てる」のでは子どもの自己肯定感は育たない。ほめることと叱ることのバランスが大事で、どうほめ、どう叱るかということが大事。子どもとの人間関係や信頼感情があれば、叱っても子どもは離れていかないと著者は説明をしています。さらに、昔は学校や地域が子どもを育ててきたが、現代は学校や地域が当てにできず、親が全面的に子育てに向かわなければいけない社会になっている厳しさも指摘しています。日本流の子育ての良い点にも触れながら、社会を視野に入れた子育てをして子どもを自立させ、親は子供の前に立ちはだかる壁となり正しい価値観を確立させることが大切だとしています。
いままで、こうだろうと思っていたことが書かれているのですが、子どもを育てるとはどういうことなのか、大人としてどうふるまうことが子どもを育てることになるのかということを改めて考え、これまでの子どもとの関わりを振り返る時間を与えられた本でした。(SH)