「外国人の人権」の社会学

8月理事推薦本 丹野清人著『「外国人の人権」の社会学』(吉田書店 2018年)

 最近、ジェンダーに関するニュースなどを目にすることが多く、気になるトピックであった。調べていく中で、日本国内では 性的指向や性自認を理由とした差別を禁止し、性的マイノリティの人たちを差別から守る法律がないということがわかった。例えば、同性パートナーへの遺産の相続権がないこと・同性パートナーの生殖医療の適応など、法的整備や受け入れ体制が進んでいないことも課題としてあげられている。法律以外にも、テレビ番組などでは、特異な存在として扱う傾向が存在していたり、会社の雇用においても性的マイノリティに関する言葉の認知が高まると共に、当事者に配慮する施策「LGBTフレンドリー」を導入する企業が増えてきていたりするが、十分に理解されていない点もあるといわれている。また、お茶の水大学が「性には多様性がある」として、トランスジェンダーの方の受け入れに向けて動き出したというニュースでは、海外での反応としては、当たり前でありむしろ取り組み自体がなぜ今頃なのか?という疑問もあがってきているのである。
 このようなことから、性に対することだけでなく、私たちの人権はこの日本の中で認められなければならないことも認められていないのではないか?また、日本人だけでなく、外国にルーツをもつ方たちは日本で生活していくうえで一人の人間として認められているのか?という疑問がうまれた。
 そこで、丹野清人氏の書かれた『「外国人の人権」の社会学』という本と出会い、読むことにした。特に印象に残ったのは、外国人の性的マイノリティの権利についてである。内容としては、覚せい剤取締法違反事件をきっかけに、在留資格「定住者」として日本で過ごしていた外国にルーツをもつ方が、退令処分を受けた件について、これまでも同じような事件において在留特別許可が出ている事例もあるのになぜなのか?ということが述べられている。
その一つの要因として日本人等との家族の形成がある。事例に出てきた方は、性的マイノリティであったため、「同性愛者のトランスジェンダー外国人は、日本で国籍上の性別を変更することはほとんど不可能。日本が同性婚を認めない以上、日本では日本人等のパートナーとは家族になれない。」ということで在留特別許可が認められない理由となったのである。ここから私は、犯罪を犯すことに関しては、大きな責任を負わなければならないと考えるが、トランスジェンダーの観点、外国にルーツをもつ方に対するまなざしという観点から考えると様々な壁が大きく立ちはだかっていることがわかった。
 他にも、外国人労働者の受け入れについて、少年非行と国籍について、ヘイトスピーチ問題など、現代の日本で生活する外国にルーツをもつ方にフォーカスを当てた内容を過去の様々な外国人に対する判決や裁判の内容をもとに述べられている。人権は、私たち一人ひとりにある大切なものであると考えた時、果たして日本では全ての人たちに人権が存在しているのか考えるきっかけとなった一冊である。(TM)