理事推薦本
「がいこくにつながる子どもたちの物語」編集委員会 編
みなみななみ 著・イラスト
『まんが クラスメイトは外国人 多文化共生20の物語』
(明石書店 2009年)
外国につながる子どもたちと関わってかなりの年月が経つが、職場の本棚でこの本を見つけて読んでみた。自分が外国につながる子どもたちから聞いたこと、研究者の方から聞いたことと照らし合わせながら読んだ。
この本は、「こんな思いをしているのは自分ひとりじゃないことがわかって安心した。そんな思いを感じながら日本で生活している子どもたちに向けた本が作れないか。」という編集者の思いから作られたメッセージ本である。中高生を対象とした本で、漫画で描かれているため、短時間で読むことができる。また、各話の終わりには「もっと知ろう」というページが設けられているので、各話に関する詳しい解説があり、知識を広げることができる。
来日の経緯、学びと課題、差別、アイデンティティ、共生をテーマにした20の物語が紹介されている。登場するのはブラジル、韓国・朝鮮、中国、ボリビア、ベトナム、トルコ、フィリピン、カンボジア、イラン、ペルーの子どもたち。これらの子どもたちが主人公となった20の物語が展開していく。それぞれの話は複数の子どもたちの体験を合成して一人の主人公の物語として作られているが、2つは実話を再現したものとなっている。どの物語も自分の身近にいる外国につながる子どもたちの顔を思い浮かべるながら読むことができる。
来日の経緯では韓国・朝鮮、中国、ボリビア、ベトナム、フィリピンからの移動が紹介されている。どれも社会的背景があっての移動であること、その背景が国によって異なることがわかる。そして、来日の経緯を知ることが子どもを理解することでもあることを感じる。学びと課題では、学習言語、母語と日本語、高校入試の壁といった、多くの子どもが経験している課題のほかに、親の生活や仕事の問題、在留資格と在留期間といったことが学びの課題として紹介されていて、学校や地域のボランティア教室で学習を支援する時には、これらのことを理解しないと適切な支援ができないと知ることができる。差別では、いじめや外国人差別といった経験が紹介され、制度上の外国人差別の話を知ることもできる。身近にいる外国につながる子どもたちの声にならない声を知ることとなる。アイデンティティでは、進路(就職)での外国人差別、通称名と本名の話を通してアイデンティティを持つことの難しさとその必要性を感じる。共生では、共生とはどうあるべきなのか、共生を実現するために日本人の私たちはどんなことを考えていかなければならないのかということを知ることができる。
この本は、外国につながる子どもたちを理解するための入門書として最適であると思う。また、外国につながる子どもたちに関して自分が見たり聞いたりしてきた経験が、この本を読むことで知識となっていくと感じる。多くの先生が、外国につながる子どもたちと接しているが子どもたちを理解するための知識を得る研修の機会がないと考えているという話を聞いている。そう感じている先生方にはぜひ読んでもらいたい。新たな知識を得ることで、子どもたちへのまなざしや支援が変わっていくと思う。また、姉妹書として「まんが クラスメイトは外国人 入門編」も併せて読むことを奨めたい。入門編は、日本人の子どもたちが外国人の子どもたちと出会ったエピソード、外国につながる子どもたちを受け入れる学校とそこの子どもたちの様子が描かれていて、やはり外国につながる子どもたちについて理解できるものとなっている。 (SH)