2020年2月24日に2020年度教育講演会を開催しました。今年度のテーマは、「ヤングケアラーを考える 子どもの視点から学校教育を問い直す」です。「ヤングケアラー」とは、病気や障がい、精神的問題などを抱える家族の世話をしている18歳未満の子どもたちや若者のことです。講師には、「ヤングケアラー」の研究をされている、成蹊大学文学部准教授澁谷智子先生をお迎えました。
講演では、「ヤングケアラー」について、調査と支援が世界で最も進んでいるイギリスの取り組みが紹介されました。イギリスでは、ヤングケアラー支援の専門家と学校の教員と地域ボランティアの三者が一緒になり、子どもたちを支援するシステムが学校の中に組み込まれています。教員や支援者の間では、子どもたちの状況が共有され、子どもたち同士も自身について、お互いに話ができる環境が整えられています。
講演の途中では、元ヤングケアラーである若者2名が、自身の経験を語ってくださいました。お二人に共通していたのは、自分や家族のことを、友人や学校の先生など周囲の人間に「言えない」・「言わない」という状況であったということです。それでも、なんとか医療・福祉機関につながってほしいと自ら助けの声をあげても、支援すべき大人に、それを聞き入れてもらえてこなかったという体験談からは、日本におけるヤングケアラーへのサポート体制はまだまだであることが浮き彫りになりました。
講演の中で澁谷先生が何度もお話されていたのは、ヤングケアラーは家族のケアを担うケアラーだけではなく、成長途中にある子どもであるという二重性を持つということです。その視点に立ち、
・潜在的能力の発揮、子どもたちのやりたいことの実現までを目指した支援
・ケアの負担の軽減だけではなく、自分の将来に対してポジティブに考えられるような
ロールモデルの提示
・大人の基準での支援の押しつけではなく、子どもたちのケアの行動を言語化して認め、
それが自信につながるようにすること
以上の必要性を訴えて、講演は終了しました。
講演会後には、パネルディスカッションを2部制で行いました。第1部では、小・中学校教師が登壇し、澁谷先生の講演を受けて、
・教室の中での子どもたちの様子の変化を見つけられるような学校現場となっているのか
・同調圧力が働く日本の学校でも、イギリス的な支援を実現することは可能か
・学校は卒業後も子どもたちにとって居場所・戻ってこられる場所となっているのか
といったテーマについて、議論がなされました。
第2部では、澁谷先生、元ヤングケアラーのお2人も加わり行われました。ヤングケアラーの子どもたちの実情に対して、他者である教師・学校がどのように踏み込んでいけるのかという点について議論がなされました。
イギリスのようなシステムは日本の学校には成立していませんし、これからもできるどうかはわかりません。それでも、ヤングケアラーの子どもたちは、今目の前に存在します。「しつこく」子どもたちと向き合いつづけ、話をしてもらえるような関係を作ることが、まずは今必要なのではないかと思いました。今回、教育講演会としては初めて当事者の方に参加していただき、直接お話を聞くことができたのは意義がありました。「先生は子どもにとって大きな存在で、心の一番の拠り所である」という言葉には、勇気づけられましたし、「教室にいる子どもたちを、自分の思い込みや経験だけで決めつけず、見てほしい」という言葉には、教師としての心構えを改めて考える機会となりました。