理事推薦本
梨木香歩 著
『ほんとうのリーダーのみつけかた』
(岩波書店 2020年)
コロナという未知のウイルスは、身体だけでなく、人と人のつながりも攻撃し、日本社会にもともとあった同調圧力は、ますます加速している。若い人たちが、まるで戦時下のような緊張や抑制を声強いられているのではないか。この本は、そんな若者に向けられためメッセージでいっぱいだ。
手軽にSNSで自分自身を発信できる今の時代。ものを個人が消費していく社会から、ついには自分自身や他者をも消費する対象となってきている。
そして、今の競争社会は、みんな同じであるべき、優秀なほど偉い、そんな空気を加速させ、うまくいかなかったことは自己責任論で絡めとり、そのシステムをより強固にしていく。
そんな中で、多様性であるとか、みんなちがってみんないいという言葉を頻発させる政府や学校教育の存在。現実の実感にそぐわない言葉は形骸化し、言葉の力は無力になる。自分の気持ちにふさわしい言葉を丁寧に探していくことが、自分を見失わないために必要だ。
強い誰かの言動に流されてしまう、または顔を上げにくい今の時代だからこそ、著者はこの本の中で、自分の中にリーダーというものをそっと置いてほしいと言う。自分をジャッジするものさしを外界に置かず、自信の内界に軸足を持とう、評価する主体は他者ではない、その主体を内側に取り戻そう、と何度も語りかけている。
著書の中で、何度も登場してくるのが、戦前のファシズムが社会を覆った時代、吉野源三郎が書いた「君たちはどういきるか」の一コマだ。主人公のコぺル君が周囲のとかかわりの中でどう自分自身を形成していくか。吉野のヒューマニズムから、現代における個人の一人の人間としての個の確立の難しさと大切さを説いている。そして「正しい批判精神を失った社会は、暴走していく。」と警告を鳴らす。正しく批判できる客観的な目をもつことは、そういう視点から自分を見つめる、筋肉のようなものであると言う。
世の中があまりに極端に走るとき、必ずそのバランスを取ろうとする力も生まれてくると書かれている。今の日本社会における政府や経済界の権力の暴走は誰もが思うところではないだろうか。そしてこの暴走はひっそりと確実に私たちの日常に入り込んでいる。
モデルがない時代であるが、自分の軸足はどこにあるのか、耳を傾けたいのはどんな言葉なのか、今一度問い直したいと思える一冊だ(YB)