【エステレージャ教室 9-10月報告】
昨年から、専門学校に通っているWさんがエステレージャ教室のスタッフとして教室に来てくれるようになりました。彼女のルーツは南米なので、同じ南米ルーツの子どもたちの学習支援にあたっては大きな力となってくれています。
そのWさんから大学への編入に関する相談を受けました。同じ大学の中での学部間での編入や、同じ系列校同士での編入は時々見られるケースかもしれませんが、専門学校から大学に編入する制度があることはあまり知られていません。相談を受けた時もそうした制度があることをあまり知らなかったので、Wさんに確かめると、以前にも同じ制度で大学に編入を果たした先輩がいるということでした。
Wさんが大学編入後に学びたいことや将来的な進路を尋ねると、かなり具体的で、編入を希望する大学についてもよく調べていることが分かります。「そこまで具体的に固まっているのなら、相談を受けてもあまり役に立たないかな・・・」と思っていました。
しかし一つ気がかりなことがありました。学費です。Wさんは既に専門学校の学費について奨学金を借りているそうです。今後大学に編入するとしても、やはり経済的な事情から、さらに奨学金を借りる必要があるということでした。奨学金を借りるあてはあるそうなのですが、問題は、大学を卒業してから迫られる奨学金の返済についてです。
Wさんが外国ルーツであるかどうかは関係なく、学卒後の若者が抱える奨学金返済の問題は、実は今日の日本社会の大きな問題でもあります。「奨学金」というくらいだから低利子だろうし、返済もそれほどきつくないのだろうと思いがちですが、それらの返済額は毎月2~3万円に上るということをよく耳にします。
「奨学金」と言えば聞こえはいいですが、結局のところ「教育ローン」なのです。以前は教職に就いた場合に返還が免除されるという制度もありましたが、いつの間にかそうした制度もなくなってしまったようで、今ではほとんどが「貸与制」となっているようです。
「賃上げ」がようやく叫ばれるようになったとはいえ、まだまだ全体的に賃金は抑えられたままです。その一方で物価は上がり続けています。いずれ税金も社会保障費も上がっていきます。さらに非正規雇用の割合は依然として高いままです。そうした中で、働き始めたばかりの若者が「わずか」とは言えない負債を抱えるという現実は、なかなか厳しいものがあります。
さらに、こうした制度について、当の本人があまりよく分かっていないということも問題です。特に外国ルーツの生徒・学生にとって、奨学金制度を理解するには相当の日本語能力が求められると思いますし、周囲からのアドバイスも必要かと思われます。
大学に編入したらあとどれだけ奨学金を借りることになって、負債総額がいくらになるのか?月々の返済額がどれくらいで返済期間がどれくらいになるのか?編入は諦めて、就職先を探したほうがいいか?・・・などなど、あれこれと頭をひねりながら、一緒に話し合いました。結局最終的な結論には至りませんでしたが、もう一度よく考えて、家族ともよく相談してみるということになりました。
この国では教育の機会は平等だと、私たちはいつの間にかそう思い込んでいるかもしれません。実際は平等どころか、きわめて不平等なのです。今回のWさんからの相談をとおしてそのことをつくづく考えさせられました。(TH)