【報告】9月事例研究会

 事例研究会は、外国にルーツを持つ子どもたちの具体的な事例を通して、かれらの背景にある事情や問題を読み解く力をつけていくというねらいで開催しています。今回は9月25日に開催した事例研究会の報告です。


【9月事例研究会】

日時:2024年9月25日(水) 19:00~21:00(オンライン)
事例:「安心できる学校生活を送るための支援」 

事例提供:大和市内中学校教諭
参加者:4名

 9月の事例研究会は、中学校の国際教室担当の先生から、来日して5か月となる中学2年生Aさんの事例を提供していただきました。Aさんは、母国で日本語の学習をしていたため少し日本語が分かる状態で来日しました。学校では、複数の先生方による日本語指導を行い、着実に日本語の力がついてきていましたが、学校生活でうまくいかないことが時間とともに出てきました。ストレスからか、腹痛や蕁麻疹といった身体的な不調や行事へ参加することの不安を訴えたり、定期テストの不安から、国際教室での取り出し指導を拒否したりといった行動が現れるようになり、1学期には友達とのトラブルも引き起こしました。学校では本人の困り感を聞き取り対応しました。Aさんは夏休みに母国へ一時帰国をして2学期を迎えました。行事への不安は抱えているものの、クラスで助けてくれる友達ができ、行事の練習に参加するようになり、Aさんには少しずつ変化が表れています。学校では、1学期に引き続き毎朝国際教室担当の先生が声掛けをしたり、通訳派遣を依頼して母語でAさんの困り感や本音を聞き出したりしています。Aさんとの話から、保護者の勉強に対する厳しさを感じることがあり、Aさんが反抗をしても父親に説き伏せられてしまうという話も出てきているという報告がありました。

 報告を受けて、アドバイザーの先生から、Aさんには留学生に似た様子が感じられるというお話がありました。留学生の中には、母国の学歴社会や親の圧を逃れるために留学という道を選ぶ学生がいるが、それに似ている。日本の生活を経験して母国に一時帰国し、日本と母国を比べて違いを感じたのではないか。母国では学歴社会を生き抜いていい会社に入るという親の圧が強い中にいたが疑問を感じることもなかったが、日本の生活を経験し、これまでとは違う価値観、本人の意思を尊重するという経験に出会い、価値観の葛藤の中にいるのではないか。そして、この先、親とうまくいかなくなるということが予想される。支援者は、日本で学んだことが力になる支援を提供する、母国と日本の違いや母国とは違う考え方や価値観があることを提示する、最終的にどちらに居たいのかを自己決定できるように価値観の多様性があることを伝えることが必要である。その際、本人の問題を社会と結びつけて話すということが大事であるというアドバイスがありました。

 今回の研究会では、事例を通して、アドバイザーの先生から「留学生に似た気質」というものについて教えていただきました。母国の習慣や文化と違う日本社会の中で生きている中で、外国ルーツの子どもたちは葛藤を抱えていきます。Aさんのように小学校高学年や中学生で来日した子どもたちは、その葛藤を感じやすいのではないかと思います。葛藤がどこから来るのか、そういった状況にある子どもたちに支援者がどう向き合ったらよいのかを学ぶ機会となりました。価値の多様性を伝えるという向き合い方があるということ、子どもが自己決定するための知識を提示するという支援の視点を持つことの必要性を知ることができました。外国ルーツの子どもの支援というと、日本語や教科学習の支援をすることと考えがちで、多様な価値観や自己決定する際の資源を提示するという支援者の役割を意識しないことが多いのではないかと感じます。支援の在り方を見直すきっかけとなる研究会となりました。