アリステア・マクラウド著 中野恵津子訳 『冬の犬』 新潮社 2004年
宝石のような短編集と紹介されていた。私もそう思う。
氷上をソリで一体になって疾走に興じる力持ちの金灰色の犬と少年。流氷に乗って猛吹雪に襲われた少年を、的確な判断で導く。野性味あふれる自衛心をましていく表題作の犬の運命。
カナダ東端のケープブレトン島を舞台にしたスコットランド移民の物語。スコットランド・ハイランド・ケルトの末裔、ゲール語民謡最後の歌い手として、歌詞の一行一句も損なうことを許さず、白頭鷲の巣近くに住む孤独な男の物語。
18世紀から強制的立ち退きが始まり、クリアランスと呼ばれ、領主は広大な丘陵を牧草地にし森林を伐採した。経済至上の始まり。スコットランドの長閑な牧草地は森林が一掃された後の景色だと知った。
圧倒的な自然の過酷さと、一瞬で失ってしまう命のはかなさが、一遍読む度に哀しみで顔が上げられず、すぐには次の一遍には進めない。消えゆく人間の労働する崇高さが描き出されていて、読後は豊かな精神で満たされる。