10月理事推薦本
菅野 仁 著『友だち幻想-人と人の<つながり>を考える―』(ちくまプリマー新書 2008年)
最近、中高生の友だち関係を見ると、一緒に過ごす仲間なのに、なにか縛られているような窮屈で息苦しい印象を受ける。あるテレビドラマの中に出てくる女子高校生は、仲良しグループの友だちに合わせて、流行りのお店やカフェに頻繁に足を運ぶ。楽しそうな写真をSNSにアップするためである。誘いを断ると「ノリが悪い」と言われ、仲間外れにされてしまう。
友だちって何だろう。仲良くするってどういうことだろう。簡単に連絡が取り合える今の時代だからこそ、人とうまく距離を保って付き合うことに難しさがあるのかもしれないと考えていたところで、この本のタイトルに惹かれて、手に取ることになった。
第1章は「人は一人では生きていけないのか」という問いから始まる。かつてムラ社会では、何をするにもいろいろな人たちの手を借りながら暮らしていた。一人では生きていけなかった。ところが近代社会になり、お金さえあればあらゆるサービスが受けられる便利な世の中になった。一人でも生きていくことができてしまう。そのため、人とつながることが昔より複雑で難しいのだという。同じような生活形態をもつ共同体から、多様で異質な者の集まりへ。なるほど、つながりに対する価値観も時代に合わせてアップデートしていくことが必要なのだ。
では、一人でも生きていける時代なら、面倒な人とのつながりは避けるようになるのだろうか。いや、人間は本質的に人とのつながりを求めようとするらしい。そして、人とのつながりにおいて、幸せになることを求めているようだ。他者(自分以外のすべての人間)には二重性があり、幸せも苦しみももたらす存在だというところに、確かにそうだと納得した。自分が気を付けているつもりでも、相手に誤解を生んだり、傷つけてしまったり、反対に相手の何気ない言動に傷ついたりする経験はだれにでもある。この二重性に振り回されながら、私たちは人とつながっている。
冒頭で述べた女子高校生の悩みは、著書の中で「同調圧力」と書かれていた。いつも一緒に行動していないといけない雰囲気に苦しむ。これは学校だけではなく、大人の世界にもある話。その原因は、多くの情報や社会的価値観の中で、自分の思考や価値観に自信が持てず、「群れる」ことで不安から逃れようとする行動から生まれているようだ。そういう関係から抜け出す発想をもつこと、「同質性」から「共存性」へという考え方を提案している。
最後に、著者の言葉で印象に残ったのは、「言葉には他の人とのコミュニケーションの手段であると同時に、自分の内面の気持ちに輪郭を与えるという大事な働きもありますよね。もやもやした気持ちが言語化できただけでも、精神的にずいぶん違ってくるのではないでしょうか。」という部分である。人とのつながりをキーワードで整理し、身の回りをとらえ直すことで見えてくることもあるのだと実感した。人間関係に悩んでいる人の心を軽くする本で、子どもと向き合う先生方にもぜひ読んでもらいたいと思う一冊である。(SM)