5月理事推薦本 松本ヒロ 作、 武田美穂 絵『憲法くん』(講談社 2016年)
「こんにちは、憲法くんです!」元気な一言から始まるこの本は、芸人の松本ヒロさんが20年近く続けてきた、ひとり芝居『憲法くん』をもとにした絵本です。
日本国憲法を人間に見立て、松本ヒロさんは、憲法くんとしてユーモラスにテンポよく、親しみやすい言葉で私たちに語りかけます。
日本国憲法は、国民主権、基本的人権の尊重、平和主義、この三つの考え方を理想としてかかげている、と憲法くんは自分のからだのつくりを説明してくれます。憲法とは、国の力を制限するための 国民からの命令書なのだと、力強く語りかけます。
しかし、「へんなうわさ」を耳にします。憲法くんが、リストラされるかもしれない、というはなし。「わたし、憲法くんがいなくなってもいい、ということなのでしょうか。」戦争が終わったあとの日本の焼野原を見つめる憲法くんの後ろ姿は続けて語ります。「こんな恐ろしくて悲しいことは、二度とあってはならない、という思いから生まれた、理想だったのではありませんか。」と。現実に合わないから憲法を変えようという意見に、「理想と現実がちがっていたら、ふつうは、現実を理想に近づけるように、努力するものではありませんか。」と率直に問いかけます。
「初心に帰ってみましょうよ。私の初心、私の魂は、憲法の前文に書かれています。」と前文を一気に読み上げていきます。
そして、「わたしは、この七十年間、たった一度も、戦争という名前のついたおこないで、人を殺したことも、人に殺されたこともありません。わたしは、そのことを誇りに思っています。」と力強く言います。
最後は、こんな言葉で締めくくられます。「でも、わたしをどうするかは、みなさんが決めることです。わたしは、みなさんのわたし、なんですから。わたしを、みなさんに、託しましたよ。」
そうだよな、うんうんと頷きながら軽快に読み進める読者(私)に、最後に、あなたの問題ですよ。さあ、どうしますか。と問いかけられ、絵本は終わります。
この絵本は、『となりのせきのますだくん』など小学生にも親しみのある武田美穂さんの優しく明るいタッチの絵と、松本ヒロさんの易しく優しい言葉で、憲法の大切さ、意味を考えさせてくれます。人が生きる社会において大切にされるべきことはなんだろう、日本国憲法のすてきなところはどこだろう、そんなことを身近な人とこそ、語り合えたらなあ、と思いながら手にした一冊です。(YB)