子どもに貧困を押しつける国

1月理事推薦本 山野良一著『子どもに貧困を押しつける国・日本』(光文社新書 2014年)

 どこか、遠い場所の問題のようだった「貧困」が日本の問題として扱われるようになり、最近ではよく聞かれる身近な言葉となっている。
 では、「貧困」って何ですか?と聞かれた時、皆さんは何と答えるだろうか。さらに、「子どもの貧困」と聞いた時、どのようなことをイメージするだろうか。
 本書は、社会的に「見えにくい」子どもの貧困を、「見えやすく」すること、「経済的にしんどい状況に置かれている子どもたち」の視点に立つことを大切に書かれている。
 しかし、本当に「貧困」は「見えにくい」のだろうか。なぜなら、貧困を「見える」形にした「子どもの貧困率」があるからである。本書は2014年子どもの貧困率が過去最悪の16.3%の時期に出版されたが、2017年には改善され、13.9%となった。「見える」形で改善しているため、「子どもの貧困」問題はこのまま解決していくのではないかと考える方もいるだろう。まさに、このような状況だからこそ、この本を手に取ってほしいのである。
 本書では、「子どもの貧困」を複合的な問題と捉え、貧困が社会構造と複雑に絡み合い、根深いものになっていること、それ故に連鎖していることを様々な視点から書いている。特に注目したいのは、乳幼児期の貧困対策の必要性である。子どもの人格や成長の在り方を左右する乳幼児期から、貧困からからくる格差は広がり、母親は自己責任の波に押しつぶされそうになりながら、育児に追われ、保育の「質」を問うことも許されない。また、母親には、情報収集能力や他者とのコミュニケーション能力までもが問われており、著者はここから新しい格差が生まれていると述べている。
 乳幼児期から始まった貧困の連鎖は、大学進学・就職という壁にぶつかり、さらに複雑かつ深刻化していくのである。本書ではヨーロッパ等と日本の大学制度を比較している。学ぶことさえも家庭の状況に左右され、諦めるしかない子どもたち、そしてその責任を親に押し付けるのが当たり前になっている日本の現状が書かれている。
 様々な視点から「子どもの貧困」について考えていくと、そのすべてに絡み合っているのは今の日本の社会構造であり、本書の随所に現れる「家族制度」ではないだろうか。ぜひ、今の日本の社会構造を意識しながら、読んでいただきたい。
 社会構造の大きな変化が見られない日本において、13.9%となった「子どもの貧困率」を見つめ直した時に、これは「見える」貧困なのだろうか、改善されているのだろうか。ぜひ、本書を一読された後に、この貧困率についてもう一度考えていただけたらと思う。そして、貧困の連鎖を断ち切り、「しんどい」思いをする子どもたちがいなくなる社会にしていくために、自分ができることとは何のか考えるきっかけにしていただけたら幸いである。
 最後に、本書のタイトルは「貧困に陥る」ではなく「貧困を押しつける」である。「貧困」を当事者の責任だと押しつけ、「見て見ぬふり」をしてはいけないのではないだろうか。(S.N)