理事推薦本
木村涼子著
『家庭教育は誰のもの? 家庭教育支援法はなぜ問題か』
(岩波ブックレットNo.965 2017年)
「家庭教育支援法」を知っているだろうか。名前を聞いたことある方や、ざっくりとした内容は把握されている方が多いだろう。近年、少子化、貧困、子どものいじめ、学力差、虐待などが問題化されている。そのような中で、家庭教育を支援することによってそれらを乗り越えていこうとする政策である。筆者の木村涼子氏(以後、木村氏)は本書の題に家庭教育支援法が問題だとはっきりと記している。本書では、「家庭教育支援法」の深刻な問題点を挙げ、その根拠として社会的な背景、歴史的な流れについて解説している。
例えば、子育てに関する多様な問題を解決するために家庭を支援しようとする政策は一見理に適っているように感じないだろうか。子どもたちを“立派”に育てる責務はもちろん家庭にあり、親が第一義的責任を担っているという理論は時として無意識に自分や他者に課しているものかもしれない。木村氏が本書の中で触れている、“母性愛神話”“3歳児神話”が示すように、根拠のないどこか神話的な「こうであるべきだろう」といった考え方が、私たちの感覚を麻痺させ、見るべき現実から目を逸らさせているのではないだろうか。
本書で木村氏は、「家庭教育支援法」の全文から問題点を指摘し、子育てに関する課題が労働問題・所得格差にもあることや、家庭への公権力の介入や過度な責務の押し付けを問題に挙げている。また、「家庭教育支援法」の裏に「教育基本法改正」が位置づいており、大きな影響力を及ぼしていることから、「教育基本法」の改正についても第10条、第11条の家庭教育に関する条項を中心に扱っている。そして、興味深いのは家庭への公権力の介入は今回の「家庭教育支援法」だけでなく、遡ると1930年の「家庭教育振興政策」にも見られるのである。
本書の結びには、あるべき「日本人」あるべき「家庭」に無意識に押し込められる前に、もう一度「家族」とは何か問い直し、新しい形を模索することが提起されている。ぜひ、本書を通して、目指すべき子ども像は誰のためのものなのか、家庭教育は誰のためのものなのか、考えるきっかけにしていただきたい。(SN)