村を育てる学力

理事推薦本
東井義雄 著『村を育てる学力』(明治図書 1957年)

 この本を読んで、改めて「学力」というものについて考えさせられました。戦後から現在、地域や保護者から気にされる学力は数値的なものさしによってはかられているように感じます。本書は、1957年に発行されていて「村を育てるための学力を育むためにはどうしたらよいか」と、村の教師が葛藤を通して、子どもや保護者、地域と歩みながら学力を向上させていく内容です。
 村で麦を栽培することになった時、親にどの麦の種類が育ちやすいかを子どもたちが尋ねます。返ってきたのは「わからない」という言葉でした。ここで、知識的な学力が必要になるのだと考えさせられました。私は、知識だけではなく、人との関わり合いの中で言葉を伝え合ったり、受け止めたりする学力が大切だと考えていました。麦の品種や特性の知識がない中では、どんな麦がその土地に合っているのかはわからず、何年もかけて良い麦を育てるのは無駄ではないが、時間と労力を多いに費やしてしまいます。自分たちと普段生活している中にはあふれんばかりの学力が基盤になっているのだと感じました。
 もう一つ考えさせられたのは、地域・保護者とのつながりについてです。近年では、地域や保護者からの過度な要求に応えるのに困惑する学校もあるかもしれません。しかし、本来ならば地域・保護者や子どもが、学校の味方であり、学校は地域・保護者や子どもの味方だと感じました。要求への対応に悩むのではなく、どうしたら地域や保護者と手を取り合っていけるのかを考えることを、根底に見据えておく必要があると思いました。
 他にも、授業の実践的な事例や子どもたちが書いた詩や作文の中にも、その時代の社会背景や子どもたちの心の声が感じられる場面があります。62年前の著書で時代背景も大分、現代と異なりますが、今の教育において必要だったり、大切だったりすることが綴られている1冊だと考えます。読めば読むほど「なるほど」と感じる本です。絶版になっていますが、見かけることがありましたら是非読んでみてください。(T.B)