理事推薦:『シャルリとは誰か?』

エマニュエル・トッド著 堀茂樹訳 『シャルリとは誰か?-人種差別と没落する西欧』(文春新書2016年)

 この本の表題の「シャルリ」とはフランスの風刺新聞である「シャルリ・エブド」の社名の一部である。この新聞社はイスラム教の預言者であるムハンマドを冒涜するようなイラストを掲載したことで、イスラム教徒のみならず世界中から非難されたにもかかわらず、表現の自由を主張してさらに掲載を続けていた。しかし2015年1月にシャルリ・エブドの編集部や食料品店などが一部のイスラム教徒によって襲撃され、多くの犠牲者を出した。この事件の直後に「私はシャルリ」と唱えて、フランス各地でデモが行われた。このデモで「私はシャルリ」と言った人たちは、いったいどんな人たちなのだろうか。
 筆者は彼らを自己欺瞞的で無自覚に排外主義的であったとしている。調査の結果、彼らの属性は管理職を中心とする中産階級が多く、脱カトリック教徒で、都市住民であると結論付けている。高学歴者は宗教に疑問を持ち、宗教から遠ざかり、他の宗教をも尊重しなくなる。また、かつてはカトリックの教義に由来する社会的規律が家庭の安定・地域社会の共同性・反個人主義的な道徳を支えてきたが、それが脱カトリック化によって崩壊し、個人の孤立やエゴイズム、功利主義が蔓延し、不平等主義的なフランスへ向かっていると分析している。
 また、筆者は彼らを「イスラム恐怖症患者」と呼んでいる。今日のフランスではあらゆる地域に、また全ての階層にイスラム教徒が存在し、完全にフランス社会に同化しているだけでなく、新たにイスラム教徒に改宗するものさえいるという。フランスの文化的・経済的重心がイスラムに傾斜していることに恐怖を感じる人が出てきてもおかしくないだろう。(F.K)