理事推薦:育休世代のジレンマ

中野円佳『「育休世代」のジレンマ 女性活用はなぜ失敗するのか?』(光文社新書 2014年)

 なぜ、あんなにバリキャリだった彼女が「女の幸せ」に目覚める「ように見える」のか。本書の序章は「バリキャリ」という印象的な言葉から始まる。
 日本政府が掲げた、指導的地位に占める女性の割合を2020年までに30%程度とする目標の達成に向けて、働く女性を取り巻く職場環境・育児支援の制度は整っているかのように見える。しかし、総合職に就職した女性の多くが、出産もしくは育休後の復帰を経て、会社を辞めている。なぜ、このようなことが起こるのだろうか。
 本書では、「育休世代」(2000年代に就職、出産した世代)の15人の女性へのインタビューをもとに、それぞれの環境や、育ってきた経緯、選んだ結果とその関連を分析することで、どのような人が、どのような経緯で、どのような状況に置かれて退職しているのか。その経緯、そこにある苦悩や葛藤、そうさせる構造を解明し、説明している。
 本書で問題提起されているのは、育児支援の内容云々にとどまらない、女性活用失敗の背景には、男女平等による「男なみ」女性の存在、少子化対策推進下における「産め働け育てろ」プレッシャー、就活時の職業選択の方法にまで至る。複雑に入り組んだ社会構造の中、そう「生きざるを得ない」女性たちがいるのも確かなのだ。
 今、母親になる女性を取り巻く環境は、実は複雑化し、そこに産まれるジレンマも深刻になっている。育児と仕事に挟まれ、苦しみ、その原因を自分に返してまた悩む女性も多いのではないか、そのような母親のもとで子どもたちは育つのだ。働く女性の環境を本当の意味で改善していくにはどうしたらよいのか、本書の最後には著者の提案が記されている。女性だけでなく、男性にもぜひ一読していただきたい本である。
 最後に、著者の言葉で「平等であるという見せ掛けをするのでもなく、不平等な社会でどう生き延びるかを教えるのでもなく、不平等である現実を踏まえた上で、その現実をどう変えるか。」「既存の構造を疑い、新しい価値を生み出し、社会を変えていく人材を育てることが必要である。」というものがあった。教育に携わるものとして、大切にしたい言葉であると感じた。(S.N)