佐藤忠良著『子どもたちが危ない-彫刻家の教育論』(岩波ブックレットNo.41、岩波書店1985年)
幼いころお気に入りだった絵本「おおきなかぶ―ロシア民話」(こどものとも絵本)の絵を描いていたのが、あの有名な彫刻家・佐藤忠良氏だと知ったのは、彼の作品展を見た時だった。佐藤氏は、子どものための、図工や美術の教科書の監修・執筆にも携わっていたことを知り、この本にたどり着いたのだった。
この本は、前半に佐藤氏の生い立ちが、後半には彫刻家の眼からみた人間―とりわけ子どもたちについて書かれている。小中学校の美術の授業についても語られているが、決められた時間のなかで、規格のものをつくることによって「こなし屋」になることのこわさ、要領だけを身につけておとなになっていくことについて問題提起している。
この本はおよそ30年前に発売されたが、全く古びていないし、むしろ現在の方が佐藤氏の言葉が切実に感じられる。タイトルは「子どもが」危ないだが、読んでいると「大人も」危ないと感じる。佐藤忠良さんのやわらかい語りの中に鋭い指摘が織り込まれている。(K)