金森俊朗・辻直人著『学び合う教室 ~金森学級と日本の世界教育遺産~』 (角川新書 2017)
生徒の感想文に物足りなさを感じるようになったのは、いつの頃からだろうか。大人が満足しそうな道徳的な言葉が並び、誰の文章か見えてこない。「つながり」と言う言葉が横行する学級は、表面的な仲良し集団で、本音でぶつかり合うことはない。「学び合い」「生きる力」「アクティブラーニング」「ICT」…どこかしっくり来ないものを感じつつ、日々の生活に追われていた。そんな折、この本に出会った。教員をめざしていた40年前の思いに引き戻された。今自分が置かれている場所で何かしらできる事があるのでは?自分に問うてみた。
この本は、小学校での生活綴方教育・生活教育により、競争社会を超える「生きる力」を育ててきた金森俊朗氏の、半世紀に渡る実践を紹介したものである。その成果と根底にある子どもの捉え方について、自身の生い立ちやオランダでの講演、大正から現代に至る生活綴方教育・生活教育の実践例を交えて、わかりやすく書かれている。
実践例の「どしゃぶりどろんこ」「いかだ作り」は、聞くだけでワクワクする内容だが、ただ楽しいだけではなく、そこで起こった学級の問題に対する子ども同士の真剣なやりとりが展開され、本音でぶつかり合い成長していく子どもたちや学級の姿が見えてくる。また、生活綴方教育の根幹である「手紙ノート」(朝の会で仲間にあてた手紙を発表し、応答し合う)は、“内なる声”を育む教育実践であり、非常に興味深いものがある。子どもたちに現実生活に向き合うよう要求し、そこで生み出される感情や意思をありのままに綴らせる。紹介されている「手紙ノート」には、家族のこと、悲しいこと、つらいことなど、子どもたちの心の声がストレートに書かれていて驚かされる。さらに、その声を受け取り真剣に応答する学級の仲間たちの言葉にも驚かされる。なぜ、こんなに素直に心の声が出せるのか?どうやったら子ども同士の言葉で交流できる学級ができるのか?その理由が知りたくて、夢中で読み進めた。
「学び合う」「生きる力」「学力」といった言葉をどう捉えたらよいのか。実践に裏打ちされた言葉は、明解でずしりと心に響く。学級のあり方、教師の役割を改めて考えさせられる一冊である。(GY)