理事推薦本
小熊英二著
『決定版 日本という国』
(よりみちパン!セ)
(新曜社 2018年)
このところの「新型ウイルス」の一件で、世の中は大変なことになっている。
ウイルスに感染するかもしれない、させるかもしれない、という不安も「大変さ」の一つであることは言うまでもないのだが、それよりも、この騒ぎに乗じて世の中にかなりの強権が発動されていることもまた、「大変さ」の一つとして考えたい。
もちろん感染拡大防止対策として、個人の行動が制限される必要が生じつつあることも理解している。しかしそれにしても、「そんなに急に?」「それはどんな手続きを踏んだの?」という決定が比較的簡単に出ているようにも思える。
「非常時」という言葉の下で、私たちは個人としての自由と権利をどれだけ制限されるのだろうか。それはこのウイルス禍が一段落した後は、ちゃんと元に戻るのだろうか。大丈夫だろうか。ウイルスへの不安と同時に「強権発動」に対する不安も同じくらい感じている。
と、ただ不安がっていても仕方がない。ウイルス対策のあおりで様々な予定がキャンセルされる中、本を読むことで、自分で考え、判断する力を養うことも不安への一つの処し方だろう。
そう思って、かなり前にひょんなことから手に入れていたこの本を手に取った。
そもそもは中学生を読者として想定して書かれた本であるためか、文体も柔らかく、とても読みやすい。読みやすいから易しいのかと言えば、実は書いてある内容は、今という社会や時代を考える上でとても重要なことが扱われていて、分かり易いが実は難しい。それでも、今日の日本という国家のなりたちが大雑把ではあってもしっかりと頭に入ってくる。
何よりも日本の近代化にあって教育が極めて重要な位置を占めている点は教育に携わる者としてしっかりと学んでおきたい。そしてその近代化の一つの帰結として、かつてのこの国が戦争という悲劇に突入したこと、さらに敗戦を経て、その反省のもとに新たな憲法が制定されたこと、しかしその後憲法の理念を巡って大国の利害が絡んでいること等々、知っておかなければならないことがコンパクトにまとめられている。
著者の小熊英二と言えば、1冊の本でも昼寝の枕にちょうど良いほどの厚さになる本を何冊も世に出している。しかしこの本は違う。ページ数は200ページに満たず、大きな活字で多くの漢字にルビが振られている。
ちなみにこの本は、初版が2006年に「理論社」から、増補改訂版が2011年に「イースト・プレス」から、そして2018年に決定版が「新曜社」から発売されている。出版社が変わっても出版され続けているということは、この本が持つ価値を物語っているのではないだろうか。(TH)