ケーキの切れない非行少年たち

理事推薦本
宮口 幸治 著『ケーキの切れない非行少年たち』
(新潮新書、2019年)

 精神科医の著者が、医療少年院などの矯正施設での勤務経験をもとに書かれた著書です。非行少年にはどんな特徴があるのか、どうすれば更生をさせることができるのか、同じような非行少年を作らないためにどうしていけばいいのかを少年院勤務で得た知見を踏まえ提案しています。
 著者は、非行少年との面談の中で彼らの類似点を“非行少年の特徴5点セット+1”としてまとめています。それは、認知機能の弱さ(見たり聞いたり想像する力が弱い)、感情統制の弱さ(感情をコントロールするのが苦手。すぐにキレる。)、融通の利かなさ(なんでも思い付きでやってしまう。予想外のことに弱い)、対人スキルの乏しさ(人とのコミュニケーションが苦手)という5点セットと身体的不器用さ(力加減ができない、身体の使い方が不器用)の+1です。この「5点セット+1」を説明したうえで、具体的にどう対処していけばいいのかを学校教育に応用できる形で紹介しています。
 著者は現在学校コンサルテーションや教育相談・発達相談を行っています。その中でケースとしてよく挙がってくる子どもたちの振る舞いや特徴は、少年院にいる非行少年の小学校時代の特徴と共通するものであると言います。非行少年たちは、それらのサインを小学校・中学校にいる時から出し続けていたということ、それらのサインを出していても学校にも保護者にも気づかれずに、社会からも気付かれずに忘れ去られてきていると言います。そして、学校の中でサインを受け止め対応をしてもらえていたら、非行少年たちは救われたのではないかとして、学校で何ができるかを考えていきます。
 子どもたちがサインを出し始めるのは小学校2年生からで、学校がサインをキャッチし適切な支援を行うことが必要であると著者は考えています。そして、今学校で行われている子どもたちへの支援が本当に有効な支援なのかということに言及しています。著者は、学校の支援で定番なのは「子どものいいところを褒めてあげる」という褒める教育だが、褒める教育だけでは問題解決につながらない、「自尊感情が低い」ことが問題だとされるが、自尊感情が実情と乖離していることが問題で、ありのままの現実の自分を受け入れていく強さが必要なのだとしています。そして、子どもへの支援は学習面、身体面、社会面での支援に大きく分類されるが、今の学校は教科教育以外がないがしろにされていて、系統だった社会面への教育がない、すべての学習の基礎となる認知機能へ系統的な支援がないとして、具体的な子どもたちへの支援の方法を紹介しています。それは朝の会の1日5分でできるものでだと紹介しています。
 今、学校で非行少年という言葉を耳にすることは少ないのではないかと思います。しかし、子どもたちの困り感が減ってきているわけではないでしょう。学校教育の責任と子どもたちへの支援を見直してみたいと思います。(SH)