理事推薦本
押川 剛 著『「子どもを殺してください」という親たち』
(新潮文庫 2015年)
「この子の課題は何なのか」と考えながら教室で子どもたちと関わってきました。少しずつ、「子どもの課題とはその子自身の苦しさであり、その苦しさは家庭の持っている苦しさではないだろうか」と考えるようになりました。
筆者は、精神科医療へのつながりを必要としながらも適切な対応がとられなかった患者と接する中で、家族の問題は社会全体で、どこの家庭でも起こりうる問題であると主張しています。
インターネットや携帯電話の普及、SNSの登場により他者とのコミュニケーションは容易になる代わりに、家庭内での「個」が尊重されるようになったこと。核家族化や少子化による家族構造の変化が、親子間の心のつながりを弱くしてるとも感じています。人付き合いの密室化により、子どもが誰と何をしているのかわからなくなっているという親が多くなっていると筆者はいいます。日本の殺人事件の中で、親族間で起こる殺人が全体の半数を占めているという社会の現状に驚きました。
そんな中、「子どもを殺してください」とい親の置かれた状況、心の様子は果たしてどのようなものなのか・・。本書に登場する7つのエピソードでは、成人を過ぎた子どもと家族が描かれており、壮絶な家族間の衝突を知るとともに、「もっと早くにできることはなかったのか」「他人事として捉えてよいのだろうか・・」と考えさせられました。
第三者が介入しなくてはいけないほどこじれてしまった家族間の問題に対し、「問題を子どものせいにしてはいけない」という筆者は「ありのままの子どもと向き合えない親にも責任がある」と主張します。”医学的な観点”で家族間を捉える視点が新鮮に感じました。
本書に登場する家族は果たしてごくごく少数のレアケースなのか。教師として日々接している、子どもたちの置かれている家庭環境はどうなっているのか。ありのままの子どもたちを受け止めて接することは、このような家族間の衝突をやわらげ、子どもの穏やかな人生に寄与することにつながるのか・・。
子どもたちが教室・学校を離れて各々の人生を歩む中で、心を病んだときに寄り添う家族がいることがいかに幸せなことなのか、教えてくれる一冊です。(MH)