理事推薦本
本田由紀 著
『「日本」ってどんな国?』
(ちくまプリマー文庫 2021年)
この本は、様々な国際比較データを用いて、若い人向けに、日本の現状や問題点を明らかにすることが目的として書かれています。取り上げられるテーマは、「家族」「ジェンダー」「学校」「友だち」「経済・仕事」「政治・社会運動」「日本と自分」という7つです。いずれのテーマも、そこに提示される日本の現状や問題点は、年上のものにとっては既にどこかで聞いた、どこかで知ったというものが多いのですが、それが国際比較データとともに示されると、問題点が一層立体的に見えてきます。ですから、若い人たち向けとはされてはいますが、年上の者にも十分に読み応えのある内容になっていると思います。
Ed.ベンチャーでは2022年度の共通活動テーマを「女性の生きづらさ考える」としていますので、ここでは特に「ジェンダー」を取り上げて紹介してみたいと思います。
日本社会におけるジェンダー不平等は挙げればキリがありません。ジェンダーギャップ指数(世界経済フォーラム)が156カ国中120位であることは有名ですが、本書ではそれ以外にもさまざまな数字が挙げられています。とりわけ興味深いのは、こうした状況に対して、男性も女性も「そういうものだよね」と思ってしまっていることがより深い問題だと指摘しているところです。その背景に何があるのでしょうか。
まず指摘されるのは「働き方」です。会社が、働く人にいまなお長時間労働や会社への献身を要請しているというのが、仕事以外の場での男性を「ケアレスマン(=人や自分のお世話(つまり家事・育児・介護)をしないですんでいる男性のこと)」にしてしまっており、女性がその穴を埋めざるをえなくなってしまっています。そして、この現状は人々の間に浸透してしまっている「男らしさ」「女らしさ」のイメージによって支えられているのです。さらに、こうしたイメージは、タテマエとしては男女平等を掲げている学校においても、「隠れたカリキュラム」を通じて再生産されているのです。
こうしたジェンダー・ステレオタイプのもとでは、実のところ、男性も「男らしさ」の圧力のなかで鬱屈しているといいます。しかし、このつらさが「男らしさ」からの解放を求めるという方向には向かわず、その圧力を免れているようにみえる女性たちへの攻撃という形をとる場合も珍しくないといいます。それがハラスメントや暴力です。
本田氏は、最後の方で次のように記しています。「何よりも重要なことは、男性であっても女性であってもセクシャルマイノリティであっても、誰もが対等な人間であり、誰もが他者から敬意を払われ、自分の望みを表明したり行動したりできるような社会にしてゆくということです。体のつくりが自分とは少し異なるだけの相手を、侮蔑したり依存したり憎悪したりすることが、いかに愚かなことか。」
そうだなあと深く頷きつつ、目の前の現実を少しずつでもひっくり返していきたいと、気持ちを新たにする書籍でした。(SMT)