チヨさんの「身売り」

理事推薦本
いのうえせつこ 著
『チヨさんの「身売り」:歴史に隠された女性たちの物語』
(花伝社 2021年)

 筆者の子どものころの子守さん(住み込みのベビーシッター)の名がチヨさん。ある日突然、「チヨさんの父親が、妾に売るからと連れ帰った」というエピソードから始まる。第2次大戦前の女性が身売りされることが当たり前だった時代の話である。その後、話は戦前から戦中、戦後占領期に、人身売買による所謂、セックスワーカーが生まれた背景、当時の日本が置かれた社会や経済状況について説明される。印象に残ったこととしては、戦後すぐ日本政府が国策としての占領軍慰安所の設置に奔走する様子である。戦前から戦中にかけて、我が国が他国にしてきたことを想定して、他国にそうさせないために次々と様々な手を打つ・・・政府、行政機関の姿は、同じ国の者として、どうしようもない気持ちになり、言葉がなくなる。
 その後、時代は下ってコロナ禍の中、女性が貧困に陥りやすく、格差が広がる様子が記述されている。
 先日、3年生の道徳で「公平・公正」をテーマにした題材に取り組んだ。そのワークシートの中に、「公平・公正な世の中は実現すると思いますか」という問いがあったのだが、「実現する」と答えた生徒はクラスで3人だけだった。夢や希望を持って理想的な社会の実現を目指してほしいと私が勝手に思っていた子どもたちは、格差、不平等、不公平などを感じて、さめているようだ。資料を補強して、道徳の時間に数時間扱いで、子どもと一緒に勉強したい本である。(MM)