目の見えない白鳥さんとアートを見にいく

理事推薦本

 川内有緒著

『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』

集英社インターナショナル 2021年

 

 

「何が見えるか教えてください。」から始まる美術鑑賞。全盲の美術鑑賞者、白鳥健二さんは年に何十回も美術館に通います。
 この本を読みながら、読者の一人として“白鳥さん”と一緒に美術鑑賞をしている気になりました。自分の目で見たものが何かを白鳥さんに伝える中で、目の前にあるものがどんな作品なのかをさらに吟味する。質問をされるたび、目の前の作品の捉え方がどんどんと変化していく。そして、一緒に作品をみる人が変わるとまた見え方が変わっていく・・。
 著者は美術鑑賞をするなかで、アートとは何かについて考えを深めます。そして、白鳥さんと過ごすなかで“視覚障害者”が“目の見えない人”でくくれないことを知ります。知らない土地の美術館へ一人で向かう白鳥さん。周囲の状況が“見えている”かのようにすたすたと速足で進む白鳥さん。気の赴くままカメラのシャッターを切る、写真家の顔も持つ白鳥さん。
 小学校の道徳でよく耳にした「優しくしましょう」という言葉に対して、『優しさや気遣いも、いきすぎてしまえば偏見や差別になる。(中略)「優しくしましょう」もまた、「助けるひと」「助けられるひと」「感謝するひと」「感謝されるひと」という関係の固定化や分断のスタート地点だったのかもしれない』と筆者はつづります。
 大切なことは、直接触れなければ感じ取ることはできない。ともに他者と過ごす時間や共感しあうことでしか、人は他人を理解することなどできない、とうったえられたようでした。
 誰かと一緒に同じ時間、同じ場所で、一つのものについて話し、語り考えるその瞬間に人は喜びを感じるのではないか。同じものを見ながらも、違った視点を持てることこそ人間としての面白さであり、その不確かであいまいな瞬間にしか真実はないと感じました。
 “障害者理解”という一つの柱に触れる中で、「自分が感じたことはそれでいいんだ」「自分は自分でいいんだ」と、自信を包み込んでくれる優しさを感じた一冊です。(H.M)