理事推薦本
ダニー・ネフセタイ 著『どうして戦争しちゃいけないの? 元イスラエル兵ダニーさんのお話』(あけび書房 2024)
著書であるダニーさんはイスラエル生まれで、徴兵制によってイスラエル軍に入隊し、3年間空軍に所属していました。退役後アジアの旅に出て来日します。その後、埼玉県に移住し家具作家となり、現在は夫婦で木工房を営みつつ、反戦や反原発を訴える講演を各地で行っています。戦争が身近なものであるイスラエル人のダニーさんが見ている世界や日本はどのようなものなのか、気になってこの本を手に取りました。
「第1章 パレスチナとイスラエルに平和を」では、2023年10月、ダニーさんの祖国イスラエルがイスラム組織ハマスの奇襲を受け、多くの犠牲者を出し、その報復として、パレスチナ自治区のガザに大規模攻撃をしかけ、たくさんのパレスチナ民間人の命が失われることになった背景が書かれています。イスラエルにはダニーさんの大切な家族や親戚も住んでいて、ハマスのしたことは許されることではないとしながらも、攻撃したらさらなる憎しみが生まれるだけで、話し合いでは解決できないとの思い込みこそを捨てないといけないと書かれています。
「第2章 戦争は最大の人権侵害」には、日本が抱える問題についても言及し、考えさせられる言葉がたくさんありました。戦争や原発事故、難民問題や性的マイノリティへの差別、沖縄基地問題、気候変動…これらの問題の共通点が、すべて人権が無視されて起こる問題であること。そして、気づきが早ければ早いほど、そしてたくさんの人が気づけば気づくほど、問題を解決することが容易になること。わたしたちがのんびりすれば、将来の世代がのんびりできなくなる可能性があることも考えなくてはいけないと書かれていました。
また、2つの国のあいだで戦争が起きているときに、どちらが善でどちらが悪だと言い切れるかという問いに対して、見分け方はとても簡単だと述べられています。悪は戦争であり、ロシアでもウクライナでもなく、イスラエルでもパレスチナでもない。平和とは2つの国でつくるもので、ひとつの国ではつくれない。この言葉にもハッとさせられました。
ダニーさんがいろいろな学校や自治体で人権についての講演をした時に、ただひとつびっくりしたことがあったそうです。それは、国、県、市の教育委員会から認められた人権問題以外には触れてはいけないということでした。例えば、原発事故をめぐる福島県民の人権問題や沖縄県で米軍が引き起こすさまざまな問題、最近では原発事故によって生まれた汚染水の海中放出問題など、学校ではタブーな場合が多いと述べられています。この状況について、ダニーさんは人権問題を知りたければ、人権問題の中で差別をしてはいけないと訴えています。
「戦争が起こるのは、自分たちだけが正しくて、相手とは対話できないと考えるから。大切なのは、どうやったら一緒にやれるかを考え、アピールの仕方を工夫すること。」ダニーさんの視点から今まで知らなかった事実を知ることができました。社会のために、子どもたちの未来のために、自分には何ができるのだろうと考えさせられる一冊です。(S.M)