水島治郎 著『ポピュリズムとは何か-民主主義の敵か、改革の希望か』(中公新書 2016)
2017年、アメリカのトランプ大統領の誕生の衝撃は、テレビやインターネットから伝わってきたが、今の世界で何が起きているのかがイマイチよく分からなかった。この本を読んで、「今の世界」を理解する一つのキーワードとして、「ポピュリズム」という言葉を知った。本書では、ポピュリズムに関する2つの定義を示している。1つは、固定的な支持基盤を超え、幅広く国民に直接訴える政治スタイル、2つ目は、「人民」の立場から既成政治やエリートを批判する政治運動、というものである。
ポピュリズムの歴史的起源は長く、今年のアメリカのトランプ現象に先立ち、すでにラテンアメリカやヨーロッパでポピュリズムの旋風が吹き荒れている。そこから、ポピュリズムの2つの側面、すなわち「解放と抑圧」が見えてくる。ラテンアメリカでは、ポピュリズムは既成の政治エリート支配に対抗して、労働者や多様な社会的弱者の地位向上のための社会政策を推進してきた原動力として機能していった一方、ヨーロッパでは、ポピュリズムは強い政治リーダー、移民排斥など排他的な理念が含まれている。つまり、ポピュリズムはデモクラシーの発展に寄与することもあれば、脅威として作用することもある。また、今回のアメリカトランプ大統領の誕生の裏側には、ラストベルト(さびついた地域という意味で、旧工業地帯の人々を指す)という「忘れ去られた存在」の解放と、トランプが唱える移民の排除という抑圧が同時に存在していると理解できる。
日本でもポピュリズムが見られ、橋本徹前大阪市長の政治手法がそれである。民衆の代弁者として自分を位置付けるとき、「誰かの声を拾うと同時に、その裏側で誰かの声が抹殺されているかもしれない」、ということを認識すべきであろうと、この本を読んで改めて感じた。(RR)