年明けは、中学3年生にとって本格的な受験シーズンへの突入になります。これは単に、高校合格に向け一生懸命勉強に取り組むべき時期である、ということだけを意味するのではありません。志願先を決定し、願書と面接シートを書き、受験料を納め、願書を出す、そして合格すれば入学料を納め、入学手続きの書類を準備し、書類を学校に出しに行く、という一連の手続きを次々とこなさねばならない時期でもあります。これらを滞りなく行うことは、外国人の中学生や保護者にとって、日本人が想像する以上に大変なことです。
エステレージャ教室の中で、願書提出直前まで志望校を決められなかった中学生が一人います。学校で一緒にいた友達がどんどん「受験モード」に入っていく中、彼は学校で徐々に居場所を失い、冬休みには、外国籍を含む他校の生徒と親しくし、さらに「受験モード」から遠ざかりました。それでも「高校には行きたい」という彼を気にかけていた担任の先生は、一緒に学校見学に行くことを考えていてくれました。しかしなかなか高校見学は実現しません。実は、先生としては彼が「受験モード」に入ることを待っていたのですが、当の本人は、なぜ先生が約束を果たしてくれないのか、全く理解できない様子でした。本人も親も、日本の高校の種類や入試の仕組みなど全く分からない中で、「受験モード」たるものを知りえないのですから当然のことです。教室のスタッフは、先生と何をどう話したらよいか一緒に考え、その結果、願書提出直前で学校見学は実現したのでした。
晴れて合格した後、今度は手続きの書類の山が彼を待っていました。日本語が書けない親に代わり自分がやらねばならないと分かっていた彼は、スタッフに手助けを求めてきました。勉強から遠ざかっていた彼には、書類の漢字も読めず意味も分かりません。ところが、勉強であれば数分と持たないのに、この日は3時間も集中して書類を完成させました。外国人であれば珍しくない長い本名を書くには、書類の氏名欄は小さすぎます。それでも自分や家族の名前のアルファベット表記を、親が書いたものを一文字一文字見ながら丁寧に書きました。漢字や言葉の意味が分からなければ質問もしました。学校が期待する「受験モード」には乗れなくても、自分が重要と思うことであれば真剣に取り組めるのです。いかに学校の進路に向けた取り組みが外国人の子どもの本来の力を削いでいるのか、目の当たりにした気がしました。
そもそも、これらの書類は日本人であれば保護者が書くものですが、彼のように自分で処理しなければならない外国人の子どもは少なくありません。彼の親御さんは、保護者の自署が必要な部分だけ書いてくれただけでした。教室の別の中学三年生の子どもにも聞いてみると、やはり「全部自分で書いた」と言います。学校が期待する「受験モード」に入れない難しさ、何とか受験をクリアしてもやってくる日本人では経験しない負担。教室では、これら受験の際の自分自身の経験を作文にして後輩たちに語ってもらおうという企画を、現在計画しています。(I)
(↓2月20日教室風景@林間小学校)
(↓2月23日学年末テスト対策@コミュニセンター柳橋会館)