8・9月キャンプ参加と教室の課題

キャンプ参加を通じて見えた中高生の課題、教室の課題
~外国人の子どもが「自分で決める」ということをめぐって~

 夏休みの8月1日~3日、二泊三日で、毎年恒例の「すたんどばいみー中学生キャンプ」が開催されました。場所は秩父の中津川キャンプ場です。事前にすたんどばいみーからエステレージャ・ハッピーにも声がかかり、エステレージャからも出し物を出すこと、高校生はスタッフとして参加することを確認し、中学生3名、高校生2名、担当スタッフ2名が参加しました。以下、準備期間とキャンプ当日を過ごす中で見えてきたエステレージャの子どもたちと教室の課題についてご報告します。

■外国人の家庭における親の権威性と子どもの自己決定権の不在
 キャンプ参加について、自分で親の許可を得られなかった中学生が二人いました。二人とも中学三年生で進学を控えており、親から「勉強にはあまり行かないのに、遊びにだけ行くのなら駄目」と言われたのです。そこで、スタッフが家庭を訪問して親と話し、キャンプ参加の許可を得ることはできました。しかし、その場面は、外国人の家庭における子どもの自己決定権のなさを改めて浮き彫りにするものでした。
 一人については、話が子どもの進路に及ぶと、父親は「この子は勉強が嫌いだから」と話し、父親が高校進学ではない道を既に決めたかのようでした。子どもはそばで所在なさげに黙って聞いているだけです。さらに、キャンプの許可は出たものの、出発直前で急に父親が彼を夏休みの間帰国させることに決め、彼は結局キャンプ不参加となりました。スタッフが帰国前日に彼と二人だけで会うと、彼は「国に帰るのは別に嫌というわけではない」と言い、そうやって自分を納得させているようでした。また、「自分は高校に行きたいと思っている」と、父親との見解の違いに困っているとも諦めているともとれる複雑な表情で話してくれました。
 子どもの意向に関係なく、子どもの処遇を親が決めてしまい、子どもはそれに異論を挟めないという親子関係は、外国人の家庭に多く見られます。これは、親子間での第一言語の違いによる意思疎通の困難や、親による母国的な親子間の地位関係の維持などに起因します。スタッフはこのことを承知してはいましたが、今回、二人の中学生の個別の事例を通じて、改めてそれを認識させられました。今後、高校進学に関しても本人への支援や家庭への介入が必要になると思われます。

■「自分で決める」感覚の芽生えと子ども同士の関係性の変化
 一方、キャンプの準備と参加を通じ、個別の子どもや子ども同士の関係性には変化が見られました。印象的だったのは、学校は休みがちで教室でも「めんどくさい」様子を隠さなかったある一人の中学生の変化です。出し物のダンスの練習日程が、親や関係者の強い勧めで参加が決まっていた他の外国人支援団体主催の学習会の時間と重なっていた事が分かった時です。学習会参加は本人の希望ではないので、ダンスの練習を優先したい彼は、どう親に話せばいいか思考停止状態になりました。そこでスタッフが「単にどちらをやりたい、やりたくないではなく、どうすれば今後親と交渉しやすくなり、やりたいことをやれるようになるか」を考えるよう声がけしました。すると、彼はしばらく考えた末、「学習会に行く、ただ、早く終わるからその後みんなと短い時間だけどダンスの練習をする」と自分で決めたのでした。これを聞いた他の子どもたちは、当日の練習時間を彼が合流できる時間に変更しました。練習当日は、彼が中心になり、他の子どもたちも教室では見られない集中力を見せました。そしてキャンプ当日、発表はうまくいってすたんどばいみーの子どもたちからはアンコールを受けました。
 キャンプ後の「お疲れ様会」では、それまで教室ではあまり関わり合いのなかった5人が、キャンプを振り返って笑いながらお互いに話し合う場面が見られ、明らかに関係が近くなっていることが分かりました。教室への関わり方にも変化があり、「自分たちでも何かしたい」と、まずは中学生が小学生を交えてのスポーツ大会の企画を始め、高校生は「教室でもスタッフをやる」と宣言しました。
 外国人の子どもたちは、家庭の中で自己決定権がないばかりでなく、学校の中でも日本社会の事情が優先されるため、場への関わりが消極的、受動的になり、自分の考えや選択に自信が持てず「自分で決める」ことを回避するようになります。しかし今回、すたんどばいみーという外国人主体の当事者団体の行事に参加した事も大きいですが、それだけではなく、仲間たちと話したり考えたりする機会が増えた事で、「自分で決める」ことができる、それを支える仲間がいる、そして実現できる、と思えるようになったのだと考えられます。

■子どもの変化を通じて見えたエステレージャ・ハッピーの課題
 今回の事を通じて子どもに変化があったということは、逆に言えば、エステレージャの普段の活動の中では、子どもが「自分で決める」ことを実現できるようにはなっていないということです。それを証明するかのように、夏休みが明けからこの5人の教室への参加は減りました。9月下旬、中学生の担当スタッフが集まり、キャンプを経て変化した子どもたちにとって、次に何が必要なのかを話し合う場が設けられました。外国人の子どもたちが家庭や学校では得られない、「自分で決める」ことができるという感覚を持てるような教室づくりをめぐって、スタッフはいま勝負の時を迎えています。(I)

一生懸命料理中

一生懸命料理中

一生懸命ダンス中

一生懸命ダンス中

すたんどばいみーの小学生と帰りの電車を楽しむ高校生スタッフ

すたんどばいみーの小学生と帰りの電車を楽しむ高校生スタッフ