母語保持の取り組み

【エステレージャ教室 7~8月報告】

 エステレージャ教室では、外国にルーツを持つ子どもの母語保持や上達のために定期的に近隣在住の母語話者の方に来ていただき母語教室を開催しています。現在は偶然にもほとんどの子どもは南米のスペイン語圏からの移民1世ないしは2世です。日本の小学校や中学校に在籍して、日本人の子どもと一緒に日本語で授業を受けています。エステレージャに通ってくるほとんどの子どもの日本語は日常生活ではあまり不自由を感じないレベルです。
 大方の兄弟姉妹がエステレージャ教室で会話する時はスペイン語ではなく日本語で行います。これは強制ではなく、その方が楽だからです。ある親子は母親がスペイン語で話し、子どもは日本語で答えています。子どもはあまりスペイン語を使いたくないからです。中には家庭では全てスペイン語で会話が行われている家族もいます。このように子どもによってスペイン語の使用頻度の環境は様々です。
 このような状況下でエステレージャ教室が外国にルーツを持つ子どもに母語教室を提供するのは以下のような理由があります。
 第一に、親の日本語のレベルが低くて子どものスペイン語のレベルが低いと、親子間で共通言語がなく、複雑なコミュニケーションが取りにくくなってきます。また祖父母や親戚との意思疎通が困難になってきます。このような状況を少しでも避けられたらという思いがあります。
 第二に、彼ら・彼女らは母語に関してはレベルの差はあるもののある程度理解できます。これは将来日本で就職をする時の利点になります。また地域の学校や病院、役所等で通訳の手伝いを担えるような人材に育ってくれればと願っています。日本にはスペイン語が理解できる人は少数です。母語を生かして安定的な職に就く選択肢を作れればと考えています。
 第三には、彼ら・彼女らが例えばペルーやコロンビア出身者であることに誇りを持ってもらいたいという思いがあります。言葉を通して自分のルーツを大切に思い、自信を持ってもらいたいのです。こんな話がありました。小学生のAさんの先生は授業中に彼女に〇〇はスペイン語で何というのかと尋ねたので、スペイン語で△△と答えると、それを聞いていた周りの数人の男子が気持ち悪いとAさんに言いました。それから彼女はスペイン語が嫌いになり、エステレージャのスペイン語教室の参加を拒否するようになりました。これでは彼女がスペイン語ができることがかえって彼女を苦しめることになってしまいます。学校においても外国にルーツを持つ子どもへの対応と、周りの日本人の子どもの外国人への理解を促す対応をお願いできればと思っています。
 以上の観点から、外国にルーツを持つ子供たちが母国語と日本語のバイリンガルであることで彼ら・彼女らの生活が豊かなものになるように願って母国語教室を開催しています。(FK)