【エステレージャ教室 1~2月報告】
南米にルーツのある中学生のBさんですが、教室に来てもとてもおとなしく、話を聞いていると学校も時々休みがちなようです。学校の宿題を持ってきて、勉強をすることはするのですが、自分から積極的に取り組むといった様子はあまり見られませんでした。
そんなBさんの教室の様子が今年に入ってちょっと変わってきたのです。
ある日Bさんは教室に母国語であるスペイン語の本を持ってきていて、それをずっと読んでいたのです。その日は、やはり南米の別の国にルーツのあるCさんも本を持ってきていたのですが、そのうち彼女たち二人が持ってきた本をそれぞれ交換したのです。しばらくすると、BさんとCさんがとても仲良く言葉を交わしています。二人はスペイン語で会話をしているので、何を話しているのか、その内容は分かりませんでしたが、あのおとなしいBさんが自信ありげに会話をしている姿がとても印象的でした。本当に些細なことかもしれませんが、自分の気持ちを自分の言葉でしっかりと口にすることができるということは、その人に自信を与える大きなきっかけになっているように感じました。
さて、そんな積極的な一面が見えたBさんでしたが、別の日にスタッフとの会話の中で最近ロックミュージックにはまりつつあるということを、今度は日本語で教えてくれたのです。そして自分の好きなバンドについて雄弁に物語ると、おじいちゃんからギターをもらったので、教室で練習したいと言い出したのです。
ちょうど同じ日に、新たに教室に通うことになった子どもたちがいて、学校で音楽の時間にリコーダーを吹いているのだが、その練習をしたい、という声が上がった時でした。子どもたちとスタッフが一緒に笛を吹き、それまで静かだった教室が一気に賑やかになりました。ですからBさんのギターの練習を断る理由などありません。その次の回からギターが弾けるスタッフがBさんに弾き方を教えることになりました。
それからBさんはほとんど毎回自分のギターを持参して、熱心に練習をするようになりました。家でも練習にかなり時間をかけているようです。勉強は大丈夫なのだろうかと心配になる部分もありますが、今までこれほどまでに何かに取り組んでいる彼女の姿を見たことがなかったので、もう少し様子を見守ろうと考えています。それは、勉強をあきらめてしまったということではなくて、ギターを練習することを通じて彼女が私たちに様々な話をしてくれるようになってきたからです。また、以前よりも日本語が滑らかに話せるようになっているように感じられることもあります。ギターを通して、彼女がどのような悩みを抱えているのか、どんなことに困っているのか、ということを知ることができれば、今後彼女の支援をする際にとても参考になります。また近い将来、彼女も自分の進路について考えなければならなくなりますが、その際にも彼女自身の考えや将来についての希望を理解するうえで大きな意味を持ってくると考えています。
一見回り道のようにも見えますが、私たちは、こうした子どもたちとのやり取りが、最終的には子どもたちが安心して学び語り合う場所を作り上げていくことにつながると考えています。