9月 母語教室の企画

 今回は言葉について考えてみました。
 6月に、小学生のAちゃんが日本語の勉強のためにと学校の先生から「家でスペイン語を話さないで、日本語で話をするように。」と言われ、母語を話したくないと言い、その話をきいたスペイン語圏の国出身の学生スタッフが、母語を大切にして自分を好きになってほしいという考えを述べました。Aちゃんがその後、家でスペイン語を話さず日本語で生活をしていたのかは確認できていませんが、スタッフはAちゃんのことを気にかけていました。同じ頃、やはりスペイン語を母語とするB君のことから、エステレージャでスペイン語教室を開いていこうという計画が持ち上がりました。
 B君は4年ほど前に来日した小学生です。B君は日本語で勉強することを嫌がり、学校の勉強にも意味を見いだせず、エステレージャに来てもほとんど勉強をしない状態が続いていました。友達とも日本語で関わろうとしないことが長く続きました。暫くするとB君は英語を覚え、流暢に英語で話すようになり、英語を話す友達とコミュニケーションを取り始めました。母語はスペイン語なのにどうしてそんなに上手に英語が話せるのかと尋ねると、You tubeで英語を覚えたと言っていました。英語で人とコニュ二ケーションを取ろうとするのを見て、英語を母語とするスタッフによる英語教室を開催し、B君が自由に英語で話せる時間を作りました。B君の英語は上達しているようですが、日本語での勉強の様子はあまり変わりがありません。言葉を覚える能力が高いB君だから、日本語を覚えることもできるだろうに、なぜB君は日本語をかたくなに拒むのでしょう。おそらく日本語が分からないためにうまくいかないことが多く、日本語を身につけたいという意欲がわかないのだと私たちは考えました。
 保護者会のある日、B君が早く来たので、通訳さんが保護者会が始まるまでの間一緒に遊んでくれました。するとB君は子どもらしい笑顔で嬉しそうにスペイン語を話し、通訳さんと遊んでいました。B君には英語だけではなく、母語のスペイン語を維持していくことも必要だということから、スペイン語を母語とするスタッフがいるのでスペイン語教室を開催してはどうかという計画が持ち上がりました。
 そこでこの計画を早速Aちゃんに伝えました。Aちゃんは大喜びするだろうと思っていたところ、Aちゃんからは「私、スペイン語はいい。私は英語を勉強するの。」という言葉が返ってきました。なぜ?学校で英語を勉強していて英語が楽しくなったから?日本では英語ができる方がスペイン語が話せるよりも有利だから?それとも英語圏への移動という話が持ち上がっているから?・・・など、色々な原因を考えました。小学生のことですから、その時の気分で英語を選んだだけで、また気持ちは変わるかもしれませんが、もしAちゃんが母語のスペイン語を大切に思わないようになってしまったら大変なことになります。それは、家族とコミュニケーションを取る大切な言葉であり、自分の考えや気持ちを表現する言葉を持たなくなってしまうことになるからです。また、母語を忘れてしまうことで自分の国の文化をも失うことになるからです。母語以外の言葉を学ぶことは良いことですが、それに伴って母語を忘れてしまう、文化を忘れてしまうことがないようにと願っています。(SH)