2月25日、文化人類学者であり、環境活動家でもある明治学院大学国際学部教授の辻 信一先生をお招きし、「弱さ」をキーワードとする思想や生き方についてご講演いただいた。
「本気で「降りる」とはどういうことか、みなさんと一緒に考えていきたい。」と語りかけるように始まった講演。特に印象深かったのは、ナマケモノからみる「弱さ」について。動かないように進化したナマケモノ。その徹底した低エネルギーは「争わない」姿勢であり、弱い方に進化した強さでもあるのだ。そんなかれらをブラジルの先住民は「空を支えているもの」と敬意をもってそう呼ぶという。
興味深いお話は続く。サルの社会は「勝ち負け」の社会、ゴリラの社会は「勝たない」社会だそうだ。自分の力を誇示するのではなく、強いものが力をコントロールし、弱いものに合わせて寄る。それはちょうどいいバランスを保つ高度な能力だという。弱さを補い合うことよりも、強弱と優劣を軸に近代化を進めてきた我々は、どう見ても「サル的」だ。
そろそろわたしたちは、強いとか弱いとか、そんな二元論から抜けださなければならない。「どっちが上か下か比べることに、どれだけの意味があるだろう。」と問う先生の言葉に、グローバルという煌びやかな響きのもと展開される新自由主義、競争にさらされる個人、消費による経済基盤、強い弱いが定義される歪みだらけの社会は、何を答えられるだろうか。弱いものにしわ寄せがいき、綻びは世界中の至る所で痛みを伴い拡大している。この社会を生きる私たちにとって、幸せ、豊かさとは何か、と考えを巡らせた。
後半は、若手教員と辻先生、外国人支援ネットワークのすたんどばいみーと辻先生、によるパネルディスカッションを行った。
若手教員からは、「学校は子ども達にシフトアップしていけ!とメッセージを発している。先生達も常に追われている。学校の基準に当てはまらない子は、できない子とされがちだが、土俵を変えれば弱いとされる人が、強いこともある。もっと、色んな弱さが生かされる場にしていきたい。」とのコメントが発せられた。
すたんどばいみーからは「生きづらさを抱え同じ境遇に生きる仲間や子ども達と時間を共有し、日本社会に問題提起をしてきた。一緒にいられる空間がそこにあるという事が重要だと活動しているが、色んな背景をもった子達に向き合うと、何が自立なのかと迷うときもある。」と、今の社会の一端を背負いつつ、明日に進む若い世代に対し、辻先生は、「小さな抵抗に問われることがある。小さく降りること。今の社会が示せないことを、示していくことの意味を考えよう。」と真摯に言葉を重ねた。
「弱さ」からの出発。そこに立つ覚悟から見えてくる可能性。弱いものに寄り添いたいと願うEd.ベンチャーの活動を足元から見つめ直すような、そんな時間となった。(BY)