2019年2月23日に、2019年度教育講演会を開催しました。今年のテーマは、「原発労働と私たち・・・そして教育」です。私たちEd.ベンチャーは、東日本大震災を受けて、足かけ4年教育支援を陸前高田市と石巻市において取り組んできました。それは、被災した地方から、都市部に暮らす私たちの生活や、教育のあるべき姿を見つめ直す意味を持った活動でもありました。今回、原発労働のことを知ることで、自分たちの生活や、労働の意味、教育において語るべきことを見つめ直したいと考えました。
講師にお迎えしたのは、ピアノ弾き語り音楽家・エッセイストの寺尾紗穂さんです。寺尾さんは、樋口健二さんの「闇に消される原発労働者」(八月書館)との出会いをきっかけに、原発労働者の方々へのインタビューを行い、2015年に「原発労働者」(講談社現代新書)を書かれました。講演では、「原発労働者」の中に登場される方、出版後に新たに話を聞いた方など、多くの原発労働に関わる人々について、お話されました。その中には、原発で直接働く人だけでなく、福島の郵便配達員や、原発労働の場で使われる自動車の整備に携わる人など、なかなか語られることがない人々にも目を向けられていました。被ばくや熱中症など作業中の健康の問題、不当な給与や不安定な雇用、下請け企業の過酷な環境など、様々な労働問題が、彼らが語る生の言葉として浮き彫りになりました。被ばくし、身体を壊して、クビとなってしまった男性が、その後生活保護を受けることができたとき、「生活保護を取って、自分は今まで生きてきた中でようやく一番安定して生きることができた」と語ったという話が、印象的でした。寺尾さんは、「若い世代が強いられている働き方についての知識であるとか、生活保護を取るということについての教育、教育というか、それが最後の命綱であって、世間的には、それを取ることが恥ずかしいとか、みっともないとかと思われている部分がまだあるけれども、それはきちんとした権利としてあるということを教えていくこともとても大切なことだろう」とお話しされました。
第2部では、金沢大学の松田洋介准教授をモデレーターに、3名の小中学校の先生をパネリストに迎え、寺尾さんとともにパネルディスカッションを行いました。原発を学校教育で扱う難しさ、子どもたちの家族の労働の問題、社会保障も含めた労働教育の必要性についてなどが話題に上がりました。
講演の後半は、寺尾さんのピアノ弾き語りでした。最後に歌われたのは、「楕円の夢」という曲です。「円は、大きさの大・小はあったしても、形は一つ、答えは一つです。だけども、楕円は、正解がたくさんある、ものすごく円に近い楕円もあるし、ものすごく細長い楕円もあるし、その中間も無限にある。」「何か物事を見るときに、これが正解であるというふうに一つのものをばーんと出すのではなくて、もっといろいろな可能性があるのではないかというふうに物事を見られたらいい」という思いが込められているそうです。今回の講演のテーマには、「知るべきこと 伝えるべきこと」という副題がついています。新しい何かを「知る」ときに、決めつけをせずに、多角的に様々な可能性を考え、「伝えるべきこと」を見誤らずにいかなければと思いました。