事例研究会は、外国にルーツを持つ子どもたちの具体的な事例を通して、彼らの背景にある事情や問題を読み解く力をつけていくというねらいで開催しています。
日時:2021年9月25日(土)
事例提供:篠原弘美(やまとプレクラス日本語指導巡回教員・事例研究会スタッフ)
参加者:12名
今回は、事例研究会スタッフの篠原から、昨年10月に来日した中学生のS君についての事例を報告しました。やまとプレクラスでの日本語学習が終了した後、学校で日本語支援を継続している中でのS君の様子と、今後の心配事を報告しました。日本語の習得に時間がかかるS君には、指導項目を絞ってゆっくりと繰り返し指導が必要でした。小学校から中学校へと支援を継続する中で、S君はゆっくりとしたペースではあるものの徐々に語彙が増えていき、自分の家族のこと等を一生懸命に話すようになってきました。母国では病気のため通学できないことが多く、S君は小学校の学習内容を理解できていないものが多く、中学校の学習を進める上では困難な点が多くあります。加えて日本語の習得も遅いため、発達障害を疑われている可能性があるのではないかという報告でした。
協議の中では、参加者からは次のような話題が出ました。
・生活経験が少ないことが、語彙が増えないことに関連する。経験しないことは獲得しないので、経験を豊かにすることが必要である。
・先生たちは、困っている子、うまくいかない子に対して「どこかに遅れがあるんです」という傾向があるが、発達障害と分かったところで何が変わるのか。時間がかかっても皆とともに作っていくことが大事ではないか。
・誰と出会うかが、社会につながることになる。
アドバイザーの清水先生からは、次のようなアドバイスをいただきました。
・排除の方向に向かうのかどうかで、手当の立て方が違ってくる。外国人も含め、どういう学校・社会を作っていくのかを考えるべき時である。
・発達障害という言葉は欧米から出てきた言葉であるが、欧米ではgifted childrenとして生かすべきものがあるという考え方から出てきている。gifted childrenという考え方が抜け落ちた状態で日本に発達障害という言葉が入ってきてしまっている。日本社会は多様性を認めず、皆同じでなくてはならないという前提がある。その中では、制度を子どものために有効に使うことが必要である。
・S君のように国境を超える子どもには、どこで生きるのか、将来はどうするのか、生活に必要な言葉は何か等、将来を展望しながら支援していくのがよい。
今回、発達障害を疑われてしまうかもしれないS君の事例を通して、インクルーシブな社会や学校を作っていくことの必要性を再確認することができました。そして、学校で真のインクルーシブな教育が実践されていくことを期待したいと思いました。
【参加者の感想】
・ともすると外国籍の児童が、障害を持っていると判断されがちです。納得行かないことが多々あったので、今日の事例研究会は、とても意味があったと思いました。「『発達障害』だったら何なの?結局のところ、教師が安心したいだけなのでは?」と思っていました。「そう認定されることが本人に利益があるならいいが」という清水先生の話はとても納得しました。ともかく、発達が早かろうが遅かろうがその子は、生きていくわけだから、色々試行錯誤をするしかないのでは?と思うのです。もっと、教師が、既成概念にとらわれず、実践してほしいと強く思いました。
・本日の勉強会に参加し、改めて感じたことは担任としてどんなことができるだろうと考えてあげることが重要だなと感じました。昨年の秋頃に、中国籍の当時小学校3年生の事例について扱った研究会があったのを思い出しました。その際に、担任だったO先生は、児童との関わりの中で児童の学力の状況や日本語の習得状況に応じて、他の児童と課題を変えたというお話があったと思います。今回のSくんの状況とは違うかと思いますが、外国籍の児童であっても特別な支援が必要な児童であっても学級担任が長い目で見て、児童の状況に応じて支援してあげることが重要だなと思いました。また、児童の習得状況が悪いからといってすぐに発達障害を疑うのではなく、どんなことに課題があるのかを考え、対応してあげることが重要だなと思いました。自分が担任になった時にどうすれば良いのかもう一度考える機会になったと思います。