事例研究会は、外国にルーツを持つ子どもたちの具体的な事例を通して、彼らの背景にある事情や問題を読み解く力をつけていくというねらいで開催しています。
今回は1月と2月の研究会をまとめて報告します。
1月29日(土) 13:30~15:30 オンライン(Zoom) 参加者3名
事例提供:篠原 弘美(エステレージャ☆ハッピー教室担当)
「地域の学習教室に通ってくる、気になる姉妹」
Ed.ベンチャーが外国人支援事業で開催している学習支援教室エステレージャ☆ハッピー教室に通う気になる姉妹について、事例研究会担当から報告をしました。
エステレージャ教室にくると、周りの子どもを押しのけて話したいことを話してしまうことが多く、姉は自分の興味のあることを相手の興味関心にかかわらず話してしまう、妹は自分がうまくいかなかったり思い通りにならなかったりすると泣いたり黙り込んだりしてしまうというところが気になり、学校ではうまくいっているのか心配な面があるというペルー国籍の中1と小2の姉妹について報告をしました。報告後の協議では、次のようなことが話題としてあがりました。姉妹が周りの子を押しのけて話したいことを話すのは、まず自分のことを話すというやり方で人との関係に参入するやり方である。姉が自分の興味ある話題で話をしているのは、関係作りのためで、言葉と気持ちが一致していないのではないか。妹が黙り込むのは、黙ることで意思表示をするということでもある。
アドバイザーの先生からは、日本的、教師的見方で姉妹を見ていると指摘を受けました。そして、「あなたはどうしたい」と周りの人に聞かれて自分の考えや意思が決まってくるので、気になることはその場で答えが返ってこなくても投げかけておくことが必要である。多文化的子どもに対するときは、自分の当たり前は本人にとっては当たり前ではないという前提で話をすることで、自分が変われるかがポイントであるとという助言をいただきました。
2月28日(木) 19:30~21:30 オンライン(Zoom) 参加者 7名
報告者:山下れい子さん(日本女子大学大学院修士課程2年)
「外国にルーツがある子どもと当事者研究~つらい経験をまなざすための方法~」
大学院生の山下さんから、修士論文の一部を報告していただきました。いじめにあった経験から外国にルーツを持つ自分のアイデンティティを失っていった過去を持っていたが、修士論文の指導教授と出会ってライフヒストリーをまとめて論文にする中で、いじめられた原因は自分自身にあるのではなく、社会的構造に原因があったと分析し、自己開示をするようになっていったこと、家族との関係、外国にルーツを持つ友達のライフヒストリーが報告されました。
報告後の協議では、次のようなことが話題となりました。教師が今陥りやすいことに、子どものヒエラルキーを利用することがある。地域の中で醸成されてきた歴史の中での社会構造が地域の固有の問題と学校の機能に影響する。教師の対応のひどさに驚くが、同じような教師は今もいて、外国にルーツを持つ子どものことを想像できない教師はいる。教師には聞く力が必要で、語れる場を作れることが必要である。教師として、差別・偏見にならされてしまう社会にしないことが大切である。
山下さんの報告を聞き、外国にルーツを持つ子どもが、教師の言葉、友達の言葉によりアイデンティティを喪失していく様子や子どもの中にヒエラルキーが本当に存在していることを知り、大きな驚きを感じました。また、子どもに与える影響が、教師により大きく変わることも実感しました。参加者からは、外国にルーツを持つ子どもたちと関わることがこれからあると思うが、子どもたちが抱えるルーツに対する考えを日本人として、教師としてどう理解してあげるかなど、教師としてのあり方を考えなければいけないと思ったという感想がありました。今回の研究会は、教師としての役割と責任の大きさを改めて感じるものでした。