【報告】3月・5月事例研究会

 事例研究会は、外国にルーツを持つ子どもたちの具体的な事例を通して、かれらの背景にある事情や問題を読み解く力をつけていくというねらいで開催しています。今回は3月27日と5月18日に開催した事例研究会の報告です。


【3月事例研究会】

日時:2024年3月27日(水) 19:00~21:00

事例:「不安を抱えた中学生」(事例提供:事例研究会担当スタッフ)

参加者:4名 

 2024年度初めの事例研究会は、研究会スタッフからの事例をもとに協議をしました。

 スタッフから提供されたのは、学校生活の中で不安を抱えている中学生の事例でした。滞日期間は4年6か月となるが、来日以来オンラインで母国の教育を受けてきていたため、日本の学校生活経験は約1年という中学生についての事例でした。「日本語が分からない」「勉強が分からない」「心が通じあう友達がいない」という不安を訴え、欠席が多くなってきている中学生の様子が報告されました。

 協議は、機会の平等のもと自己責任感が問われるようになっている学校について、参加者が意見交換することから始まり、学校が競争的になっていることが話題となりました。アドバイザーの先生からは、経験を客観視し言語化する力をつけていくこと、社会で生き抜く方略として自分で選択(自己決定)していく力をつけていくこと、失敗したらやり直せる環境を用意することが大切であるというアドバイスがありました。

 教師は「教える」ということを役割と考えるため、子どもが「自己決定する」ということを忘れがちであると思います。「自己決定」という言葉はこれまでの研究会で何度も出てきましたが、忘れがちな言葉です。子どもと向き合うときには、自分自身の向き合い方(姿勢)を常に客観視していくことが必要だと思いました。


【5月事例研究会】

日時:2024年5月18日(土) 13:30~15:30

事例:「初めての国際担当経験から見えてきた子どもたちの困り感」(事例提供:大和市小学校教諭)

参加者:5名 

 昨年度、初めて国際教室担当を経験した大和市内の小学校の先生から事例を提供していただきました。国際教室を担当した当初は学習支援を中心に考えていたが、家庭状況によって、学習以外に困難を抱えていることに気づき、学校生活の支援の大切さを感じるようになったという報告がありました。さらに、子どもの支援を通して、担任をはじめとする教師の意識についても触れ、教師の意識の薄さが子どもの困り感につながっているように感じると、教師の意識の在り方についての指摘もありました。

 これらの報告の後、三人の子どもの事例が挙げられました。このうち二人の子どもについては、国際教室の対応により、子どもの困り感が軽減されている事例でした。もう一人の子どもは、学校を休みがちで友達とのかかわりが少なく、語彙も少なくあまり話さない、教室での授業は静かに座って終わるまで過ごしているという、学校生活が不安定で今後が心配だという事例でした。

 今回は、この子どもの事例をもとに協議をしました。協議の中では、子どもの家族関係が焦点となりました。家族関係のつらさがある子どもの支援では、まず家族関係を紐解いて支援の方向性を見つけていかなければならない、複雑さがないほうがいいというおおらかさのない目線があり、複雑な家庭環境の子どもへの支援が難しくなっているといった意見が出されました。また、国際教室と学級との関係も話題となり、国際教室の担当者が一番繋がりを作るのが難しいと感じているのが担任だと感じるということも話題となりました。子どもの語彙を増やすのは国際教室だけでは無理で、学級の教科の中での支援も必要であるのに担任と繋がる(担任の理解を得る)のが難しいという現状があることが挙げられました。

 アドバイザーの先生からは次のようなアドバイスがありました。子どもの不安定さの背景には家族の不安定さがあり、子どもが話さないことの裏側を探る必要がある。家族の背景を知って家族関係の中で子どもができることが増えるようにしていく、子どもにとって資源が増えていくように支援をしていくことが必要である。さらに、近くにいる大人と話したことが良い経験に繋がっていくようにすることが大事である。

 学校では、子どもの学習状況が中心に語られ、家族やルーツといった子どもの背景に目を向けること、語られることが少なくなっていると感じます。子どもの背景やルーツに目を向けることで、子どもの困り感を紐解くヒントが見つけられるということを知る研究会となりました。