インクルーシブな社会を目指す学習会報告
日時:2020年10月14日(水) 19:00~21:00(Zoomによる)
参加者:10名
講師:清水 睦美氏(日本女子大学 人間社会学部教育学科教授)
内容:進む“心理主義化” ~特別支援教育とインクルーシブ教育の違い~
今回の学習会は、講師に清水先生をお招きし、「個人の心理への理解が多様な社会現象の理解につながり、対人関係・社会を『よい』方向へと導く」という考えのもと発展してきた“心理主義”について学ぶとともに、心理主義の浸透により引き起こされる様々な“生きづらさ”について考えるきっかけとなる学習会になりました。
心理学が前提とする規範である①合理性規範(物事は予定通り、効率的に処理できるようにふるまうべき)と、②人格集配規範(人の対面や気持ちを傷つけてはいけない)。そして、過度な“自己コントロール”への期待は、当たり前のように私たちの生活に浸透し、知らず知らずのうちに、様々な問題の原因を個人に求める空気となっていることに怖さを感じました。
学校現場で日々直面する子どもたちや保護者が抱えている課題や苦しい状況に対して、原因解消のために共に立ち向かうのではなく、「“よくない”と思う気持ちを変えていこう」と声をかけていたとしたら、それがどれほど無責任で、苦しさの再生産につながっていくのか・・。
“心理主義”は、自分自身だけでなく社会全体に広がっているということ。そして、自分の困難な状況を変えていくために、外部に働きかけようとする気持ちを生み出せなくなる危険性をはらんでいる。
個人の支援を前提とする特別支援教育がインクルーシブ教育へと変わらない原因の一端であるように感じます。「教員の専門性こそインクルーシブである」という、出席者の感想が今後の、学習会の一つの柱になるのではないかと感じる機会となりました。
以下感想より抜粋
小学校支援級担任
「心理主義」という言葉は、初めて耳にしましたが、これほどまでに自分や周囲の人の中に浸透していることに驚き、また、それがもたらす危険性についても知ることができました。
また、特別支援とインクルーシブ教育については、先生の示していただいた図がとてもわかりやすく、自分の感じていた支援級の問題点とリンクするところがありました。
「個別指導という名目でのなんでも屋」という馬場先生の皮肉たっぷりなコメントにもうなずけます。学校の中で、まだまだこの違いが浸透していないこと、そのために私たちが変われていないことを改めて感じ、自分がこれからすべきことが見えてきました。ありがとうございました。
小学校支援級担任
排除してるつもりない排除って怖いです。排除を肌で感じてる人達はどれだけの恐怖や圧に耐え、自分自身を削っているのか。話を聞いていて苦しい感覚になりました。学校や学級、属するコミュニティーがどんな集団でありたいのかという価値を見出していけたら、少し勇気が出る気がします。今日みたいにみんなの考えを聞いたり、自分も声に出していけたらと思いました。
中学校教員
清水先生のお話を聞きながら、自分も学校もどっぷりと心理主義化にはまっていたなと感じました。不登校気味の子や問題を抱えた子を、心理の専門であるカウンセラーさんにつなげたら、あとはお任せといった傾向が見られ、教員の仕事は何なのか?と疑問を持つことが多かったです。疑問に思ったことは声に上げて変えていかなければならないと改めて思いました。
また、学校内で「インクルーシブ教育」という言葉が使われるようになって久しいけれど、実態は名ばかりで、困り感のある子を支援という名の下、特別支援学級、国際教室、適応指導教室等に切り離し、本来居るべき学級から排除しているのが実情だと感じています。インクルーシブな教室を実践するには、少人数学級、複数教員の配置、専門性のある人の配置など、学校制度を変えていかなければ難しいと思います。しかし、現在の学校で少しでもインクルーシブ教育を実践するには、インクルーシブ教育の意味や学級作りに関する考え方を、学校や教員内で語り合う機会を増やすことから始めるしかないと思います。
中学校教員
清水先生、お忙しい中でのご講演ありがとうございました。
今回の「心理主義化」というテーマによる講演は、これまでの教員生活での生徒(保護者)への対応を考え直すきっかけになりました。「なんとかしたい」という生徒の心に対し、その原因を無条件にその生徒に求めていなかったか、と気になりました。
印象に残った言葉としては、「予防的やさしさ」と「治療的やさしさ」です。行き過ぎた配慮が、目に見えない、真綿で首を絞めるような苦しさを生産していると思うと、怖くなると同時に「どうすればそれを解消できるか」と、新たな課題が見つかりました。
また、自分が大きな歴史の流れ・様々な社会背景の中、無意識に世界や人をどのようにとらえていたのか、教えていただけました。それぞれの“学問”の持つ文化や流儀(?)について、その一端を見れたことも興味深いごとでした。
無意識に責任を個人に求める土壌で育ち、(当然)それを当たり前のこととして受け入れていたことがとても怖いことだと感じました。
インクルーシブの視点(?)が、“やさしすぎる心理主義化”により本当に苦しんでいる人や社会を救うことになるのか、これからも勉強と実践を続けていきたいと思います。
とても勉強になりました。ありがとうございました。