フェミニズムニついて0から教えてください

理事推薦本
上野千鶴子 田房永子 著
『上野先生 フェミニズムについてゼロから教えてください!!』
(大和書房 2020年)

 この本は、社会学者の上野千鶴子さんと漫画家・ライターの田房永子さんの対談をまとめたものです。上野さんは団塊世代、田房さんは団塊ジュニア世代という、年齢的には親と子世代にあたる二人の対談です。対談では田房さんや上野さんの経験等を通してフェミニズムが語られ、フェミニズムが身近なものであることを知ることができます。
 第1章は、母娘関係、第3章は結婚・恋愛・子育て、そして第4章では性を、第2章、5章では女性の闘いとフェミニズムをテーマに語られています。
 抑圧的な母と反発する娘の関係を取り上げた母娘関係では、母が娘に対して抑圧的になるのは母の個人的な性格だけの問題ではなく、背景には家父長制社会の中で生きる女性の生きづらさがあること、女性の生きづらさを理解するには、時代背景や社会構造を理解しないといけないことが挙げられています。
 結婚・恋愛・子育てでは、田房さんが社会にはA面とB面があるとして女性の生きづらさを説明しています。A面は政治経済や時間、雇用といった融通が利くもの、B面は生命や育児、介護、病気や障害といったかけがえのない、代えのきかないもので、男性は基本的にA面にいるのに対して、女性は最初A面にいるが出産や育児が出てくるとB面に行く、そしてA面とB面を行き来しなくてはいけなくなる、A面側からB面に働きかけるということはないので、B面からの何らかの訴えがないとA面は変わらないと説明しています。この説明を知ると、女性の生きづらさが社会構造に繋がっている問題だということがすんなりと理解できます。
 また、上野さんの語りからは、「個人的なことは政治的なこと」を標語としたウーマンリブなど、女性が生きづらい社会を変えていこうとした運動の歴史も対談の中で知ることができますが。それらを語る上野さんの言葉で一番印象に残ったのは、「誰かが石を投げなきゃ波は起こらない。それで波が起これば、あとは波を受けた人がそれぞれの分野で受け止めていけばいい。」という女性の闘い方について語った言葉です。女性の生きづらさと真剣に闘ってきた上野さんの力強い言葉で、様々な人が闘い続けてきていること、すぐに結果に結びつかなくても闘い続けなければ社会が変わらないことを表している言葉です。
 さらに、東大入学式での上野さんの祝辞「フェミニズムは弱者が強者になりたいという思想ではなく、弱者が弱者のままで尊重されることを求める思想です。」という言葉にも対談では触れられていて、フェミニズムが目指す社会像を知ることができます。フェミニズムは女性だけのものではなく、社会的弱者が生きづらさを抱えることなく生きられる社会を目指しているところは、Ed.ベンチャーの活動理念につながるものだと感じました。
 弱者のために闘った先人たちのおかげで、昔よりも少し生きやすい社会になってきていますが、生きにくさを感じることの方がまだまだ多いのが現実です。2022年、Ed.ベンチャーは女性をテーマにした学習会をいくつか開催しますが、身近なことをフェミニズムの視点で考えていくことから女性の問題を考えていこうと思いました。(SH)