内容 『女性の貧困から見えること』
講師 首都大学東京 杉田真衣先生
日時 2017年 7月3日(月)19:00~21:00
場所 大和文化創造拠点シリウス603号室
参加者 10名
多くの教師は、困っている状況にある子どもを「何とかしたい」と働きかけようとする。その時、お母さんたちの問題にかなり多くの教師が直面することだろう。貧困という言葉の下にある現実は、労働、孤立、暴力…様々な問題を抱えている。子どもの貧困を考える上で、女性の貧困の状況を知る必要があるのではないかと考え、今回は長く女性と労働に焦点をあて研究されている杉田先生をお呼びして話をしていただいた。
女性の貧困がなかなか語られない背景に、女性は夫に養ってもらえばよい、それゆえに女性の労働は、非正規、低賃金でもよいとされてきた経緯がある。男性すら非正規労働の中にあり、養ってもらえない女性たちが、労働の問題に直面し、その問題が明らかになってきたのである。
杉田先生の高卒女性たちが30歳になるまで追い続けたインタビュー調査からは、女性たちの現実が浮かび上がってくる。
貧困状態に陥る女性たちの多くは、学生時代から家庭の状況が落ち着かず、生活のためにバイトをしていたり、落ち着いて学習できる環境になかったりしる。彼女たちが、正規の仕事に就くこと、奨学金を申込み進学できること、はとても高い壁がある。非正規で安定した収入を得られない中で、正規なみに働かされる。仕事を通じて、アイデンティティを形成することが難しく、将来展望も描けない。経済的自立の困難は、明白であった。
今ここにいるという感触を得られる関係や場が、女性たちのこれからにとって重要な意味をもつ。どこにもアクセスできないお母さんたちが、子どもを通じてかろうじて学校にそれを求めることは、自然な流れなのかもしれない。ただ、学校はその道の専門機関ではない。親の状況を個人の問題と片づけることなく、やはり専門機関と手を携えて親を支えていくことが必要だ。学校が、お母さんの困り感を受け止め具体的な方策として行政につなぐ、ということも実際にあることのようだ。地域の中に、居場所のような場があることが、今後は必要であるのかもしれない、と先生はおっしゃった。
学校以外にも、生活していくために必要な情報が得られ、場合によっては専門機関につながれる場であると同時に安心していられる居場所をあちらこちらにつくること。
そして、女性たちが生きていく上で必要な知識や技術を伝える事。妊娠や性感染症、暴力、依存症を含む病気、労働のルール、生活保護や育児支援、先生が挙げた具体例は、生きる上で知るべきことでありながら、タブー視され学校現場で正面から扱われることは少ない。この点についても、教員の立場からアプローチできることがあるのではないかと、今後の課題をいただいたように思う。10月の学習会では、元養護教諭の金子先生をお招きし、性と女性の問題をお話ししていただく予定なので、そこでさらに勉強していきたい。
◎以下、参加者の感想一部抜粋
女性の貧困の現実を感じました。特に仕事に対する自己満足感のなさ、金銭的な貧困とこれは深い結びつきがあると思います。仕事をしていく上でのやりがいやアイデンティティの形成こそ、私たちが仕事をする大きな意味なはずなのに・・。目の前の子どもたちに何ができるか、もっと具体的に、もっと実践的に考えていかなければいけないと実感しました。いつも貴重な学びの機会をありがとうございます。(中学校教諭)
自分の想像を超える女性の貧困の実態をお聞きして生きていくことの困難さを感じました。子供を抱え、一人親の母親など、目の前の生活にいっぱいいっぱいで、余裕がない中暮らしていることを思うと学校としてできることはしていきたいと思いますが、社会としてそのような女性を救う場所、制度、支援をもっと整えていって欲しいと思いました。(小学校教諭)
4人の方のお話を聞くと、人への依存が高く強く、そこから大変さにつながっている場面もあるのかなと思いました。一方で友人との関係性の中で保たれている部分もあり、依存の善し悪しがあるのかなと思いました。学校の中で知識として伝えるときに、どこまで自分の将来に繋がっていることとして教えられるのか、また生徒の親が生活保護や非正規労働、様々な病気等、「今その状態」の中でどこまで教えていいのか、教えることができるのか、難しいなと思いました。(中学校教諭)
今日はありがとうございました。「女性の貧困」について知っていると思っていただけで、実はその人たちがどんなふうに生きているのかは、よくわかっていなかったんだなと言うことが、今日のお話を聞いて分かりました。社会は貧困を「その人のせい」としてしまいがちだと思うのですが、決してその人たちが怠けたり楽をしたりしているわけではない。どうしようもできなくて「貧困」という状況におちいっているだけだということをもっと多くの人が知らなければ、日本という社会は良くならないなと思います。考える、とても良い機会をあたえていただきました。ありがとうございました。(小学校教諭)
今日はありがとうございました。「男性」と「女性」の違いがとてもよくわかりました。やはり女性は苦しい立場に置かれることが多いと思います。それは日本の歴史の流れもあるとは思いますが、これから貧困を抱える女性を、どのようにサポートしていくか。地域や社会とのつながりの必要性をとても感じました。また、その貧困が連鎖をしていくということも気になるところです。その連鎖を断ち切るためにも、やはり地域とのつながり、そして、子どもたちをその連鎖から抜け出すために、学校として何ができるのか、これからも考えていきたいと思いました。ありがとうございました。(中学校教諭)