理事推薦5月『転換期を生きるきみたちへ』

Share on FacebookTweet about this on TwitterShare on TumblrShare on Google+Email this to someone

内田樹編『転換期を生きるきみたちへ―中高生に伝えておきたいたいせつなこと』(晶文社 2016)

 この本は、編者の内田樹氏が10人の著者に、1つのテーマについて寄稿を依頼したものである。そのテーマは、「世の中の枠組みが大きく変化し、既存の考え方が通用しない歴史の転換期に、中高生に向けてこれだけは伝えておきたいこと」。このテーマについて、憲法、愛国心、科学、消費社会など、様々な論考が寄せられている。(2016年度教育講演会講師の平川克美氏も人口減少社会について書かれている。)中高生が対象ということで、語彙や事例が彼らになじみ深いものを取り上げているものもある。
 高橋源一郎氏は、オバマ前アメリカ大統領の2016年広島での演説について、演説中の「私(4回)」と「私たち(45回)」の使われ方の違いから解説し、自身が感じた「なんか変。」について書いている。そして、政治的なことばが持つ抽象的な表現による、ことばの力の危険性を指摘している。
 想田和弘氏は日本経済について、高度経済成長期を「青年期」、バブル後から続く現在までを「中年の危機」と例え、「アベノミクス」を、体力的に衰えながら、成長を目指す筋肉増強剤と批判している。そして、国の老化と付き合いながら、限られたパイを分け合う考え方を示している。

 全編を通してこの本に書かれているのは、転換期を中高生が生きていくための知恵と技術。本を読んで、「教育の目的は、子どもたちが大人になったとき、どんな社会を作っていけるか」という先輩の言葉を思い出した。目の前の子どもたちに、自分はどんな知恵と技術を教えてこられただろうか。
 本の最後は、鷲田清一氏が弱さや不便さに基づいた生き方について書いている。この章のタイトルは「社会に力がついたと言えるとき」。その力は、中高生だけでなく、転換期を迎える要因を作ってきてしまったかもしれない大人も、社会在り方を変えていくため、一緒に目指さなければならないものだ。「そのとき」を迎えられるよう、私なりの子どもたちへ伝えるべきものを探していきたい。(IT)