BLACK LIVES MATTER

理事推薦本
河出書房新社編集部編
『ブラック・ライヴズ・マター 黒人たちの叛乱は、何を問うのか』
(河出書房新社、2020年)

 

 この本は、2020年8月に初版が発行されたリアルタイムの書物である。
 多くの執筆者と、現地でのインタヴュー、現地報告で構成されている。現在日本女子大学人間社会学部現代社会学科准教授であるマニュエル・ヤンは、「ブラック・ライヴズ、マターとは何か」の冒頭で、「2020年7月に警察に殺害されたエリック・ガーナー事件から6年たった今、ジョージ・フロイドも無防備のまま警官に絞殺されたのは、黒人に対する警察暴力がどれだけ絶望的に放置され続けているかを示しているとともに、こうした暴力が振るわれる対象が圧倒的に黒人の下層階級だということを見せつけている」と述べている。そして、「警察の蛮行は、単に人種差別に由来するものでなく、あからさまな階級的抑圧として機能している」と。
「白人ナショナリズムは、何を問うのか」の中でインタヴューにこたえている渡辺靖(アメリカ研究者で慶応義塾大学SFC教授)は、今回のBMLが大規模化したのは、圧倒的に映像の衝撃によるもので一気に全米50州にデモが拡散したという。これは、SNSによるものだと。また、白人や若者の参加者が多いのも特徴だそうだ。これは、ミレニアル世代とかその下のZ世代にとってアメリカンドリームが神話に過ぎなくなったこと、学校では銃乱射事件があり、異常気象、経済格差、雇用不安、そこに今回のコロナと人種問題が重なったと見ている。
 「黒人の命は軽くないー黒人抵抗運動の歴史とBLM運動―」執筆者の長澤唯史(椙山女学園大学教授でアメリカ文学研究者)は、運動の歴史の中で単に黒人対白人の図式では回収できない人種問題があったが、BLMのスローガンは、「白人の黒人に対する暴力」というワン・イシューのもとで結束し、このBLMを突破口に複雑な人種問題の底に横たわるアメリカ社会の真の問題を炙り出すのではないかと述べている。また、BLM運動のきっかけは警察や権力による黒人への不当な扱いである「レイシャル・プロファイリング」と呼ばれた長らく社会問題となってきた問題から発していると。
 中村隆之(早稲田大学准教授フランス文学・カリブ海文学研究者)は、「人種主義とのたたかいは、人類的課題であり、誰かを犠牲とすることから成立する経済至上主義の社会の価値観それ自体だと。
 友常勉(歴史学者、社会思想)は、「アメリカ黒人暴動史」の中で「警察国家化」が、1920年から1930年の大恐慌時代に始まったと述べている。その過程で警察のプロフェッショナリズムと軍隊モデルの採用が1950年に実現し、国内植民地から白人居住区への非白人たちの侵入を阻止してきたと。
 名波ナミ(活動家、翻訳家)は、「日本人特権の使い方―トレンドではなく本物の改革をーで、5月30日に行われたトルコ人男性への渋谷署の警察官による暴力に抗議するデモに参加していたことそしてこの事件は、「人種的な差別に基づいた警察暴力」という点でジョージ・フロイドさんの事件と全く同じ構造をもつものだと気づいた述べている。6月14日、日本でも留学生が中心になって東京「ブラックライブズ・マター平和行進」が行われ3500人が集まったらしい。だが、「日本人」でない者が行動するにはあまりにも障壁がありすぎるのだと。
 この本には、もっといろいろな現状が報告されている。私たちがニュースや新聞では知りえない情報である。「日本人」という特権下で暮らす日本人として、この書物から考えさせられたのは、日本に住む外国につながる人たちに対して、日本でも「レイシャル・プロファイリング」が行われていること、警察がアメリカのような軍隊モデルを採用していこうとしてはいないのかという危惧、日本に住みながら、自分たちの生活を左右する政治への参加を認めていない日本の現状であった。(NJ)