ポスト・コロナショックの学校で教師が考えておきたいこと

理事推薦本
東洋館出版社 編
『ポスト・コロナショックの学校で教師が考えておきたいこと』
(東洋館出版社 2020年)

 遠い海外での出来事だと思っていたコロナウィルスの猛威は、あっという間に私たちの日常に入り込んだ。それは、止まることを知らずに、1年を過ぎても未だに解決には程遠いように感じる。「非日常」が最早、「日常」に成り替わってしまう程、長いコロナ禍での生活の中で、様々な立場の人達がどうにか工夫し、生活していく術を模索している。
 そのような中で、全国のほとんど全ての学校は2020年3月2日~5月末、前代未聞の全国一斉の臨時休校になった。卒業式や修了式、入学式、始業式のある学校生活の中でも区切りとなる大変重要な期間である。特に卒業を間近に控えた子どもたちには突然、友だちとの別れが突き付けられた。そして4月からの新しい学校生活は始まった実感がないまま休校し、一日一日と過ぎていった。学校が3ヶ月という長い期間休校することになったことで、子どもたちに多大な影響を及ぼし、学校現場は対応に追われた。そして様々な問題が浮き彫りになったのも確かである。
 一斉休校から段階的に学校が再開される5月、本書は緊急出版された。学校再開とそれ以降に備えるために「ポスト・コロナショックの学校」で生じる様々な課題と対応策について書かれている。本書には研究者、管理職、教諭、NPO法人、専門職等、様々な立場の方たち総勢25名が現場の状況や子どもたちの置かれている現状等、そこから見える課題や展望を論じている。各々が書いているテーマも実に多岐に渡っており、学校・教師の存在意義から始まり、教育格差、虐待問題、オンライン授業実践、地方自治体の動き、感染対策、特別支援教育、子どもたちへの関わり、学級経営・学校経営、いじめ問題、子どもたち同士のつながりについて、そして具体的な授業づくりについて等である。どの内容もとても興味深く、コロナショックの中での具体的な取り組みや、子どもたちのリアルな実態が書かれている。そして、ほとんどの方が最後にこの窮地から得た課題やこの先への希望、教師が考えていかなければいけないことを書いており、このよう現状の中で、自分がどこに向かって行けば良いのか考えることにつながるのではないだろうか。
 本書の中で、熊本大学准教授 苫野一徳は「公教育の構造転換」について述べている。その一つが「ゆるやかな協同性」に支えられた「個の学び」が尊重された「学びの構造転換」である。異年齢で構成されたコミュニティへ学級を再編することで、多様性を包摂し、認め合い、生かし合える環境を整えるということである。また、教師が子どもたちに一方的に学びを与えるのではなく、「共同研究者」「探求支援者」として子どもたちの自律的な学びを尊重したものに転換できるのではないか、ポスト・コロナ時代の今だからこそ、今までの教育を見直すことができるのではないかと書かれている。35人学級の実現にも見られるように、長い間変わらなかったことがここで見直されるといった事例も見られる。今までの教育を見直し、課題を整理することでこれからの社会において目指す教育とはどのようなものか見えてくるのかもしれない。本書にはそのヒントになることが随所に書かれている。それは、決して悲観的な内容ではなく、これからの希望であり、願いであるはずである。ぜひ、一度読んでいただきたい1冊である。(SN)