映画『タクシー運転手』(DVD)

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理事おすすめ映画
チャン・フン監督 『タクシー運転手―約束は海を越えて』(TCエンタテインメント 2018年)


 日韓関係がよくない。「そういう時だからこそ、韓国のことを学ぼう」、そんな目的で手に取った映画である。
 1980年5月18日~27日、大韓民国でおきた「光州事件」をご存じだろうか。現在の大韓民国大統領である文在寅氏は、大統領就任後の5.18民主化運動記念式典で、「文在寅政府は光州民主化運動の延長線上に立っています」「新政府は5.18民主化運動とろうそく革命の精神を仰ぎ、この地の民主主義を完全に復元します。光州の英霊たちが心安らかに休めるよう成熟した民主主義の花を咲かせます」「光州精神を憲法に継承する真の民主共和国時代を開きます」と、演説しているという。つまり、現韓国政権の基本となる考え方が、その事件にあるというわけである。
 この映画は、その光州事件に関わる実話の映画化である。視聴しての率直な感想は、いろいろな意味で驚いたということである。まず、韓国に、それもそれほど遠くない過去に、これほどまでに悲惨な政府による市民の弾圧があったという事実に驚かされた。光州市に投入された総兵力数は約25000人で、その人数で市民が弾圧されていったという。次に、戒厳令が引かれるということは、これほどまでに権力者に有利な情報だけが流されることになるのか、という事実にも驚いた。現在、日本の憲法改正の議論の中でも「緊急事態条項」の盛り込みが検討されており、この条項が盛り込まれれば、こうした状況が生み出される可能性があることも想像できた。最後に、こうした戒厳令下で、韓国の庶民が権力に向かってこれほどまでに抵抗した経験をもつ、そうした韓国の歴史にも驚いた。現在の大統領文在寅氏も、民主化運動の中で逮捕歴をもっているという。韓国には民主主義のために闘うという層が一定の広がりをもち、かつ厚くあることが想像できる。
 他方、やはりそうだったのかと思わざるを得ないのであるが、それでも残念に思うのは、日本の無関心である。映画の中でも、光州で起きていることを、当時の韓国政府が発信する情報通りに日本国内で流されている様子が描かれている。そのもとにあった日本駐在のドイツ人記者・ユルゲン・ヒンツペーターが、流される情報を疑い、渡韓し、そこからソウル出身であるタクシー運転手の力を借りて、光州に赴き、映像をとり、光州で起きている事実を世界に発信したのである。もちろん、そのタクシー運転手も、始まりでは無知な庶民なのであるが、記者と同行する中で、また光州の庶民と出会う中で、その事件の核心に触れていくことになる。
 この映画をきっかけに、この夏、韓国に出向いて光州まで足を延ばしてみた。ソウルと光州の距離は映画で描かれて想像した距離より遠く、新幹線で2時間もかかった。2011年にはユネスコ記憶遺産に登録されることになったという光州事件は、『地球の歩き方』には掲載されていなかったが、「5・18民主化運動記録館」が整備されていて、日本語もパンフレットもあり見ごたえのあるものであった。資料館のガイドさんは必ずしもうまい日本語というわけではなかったが、事件の悲惨さを語ってくれた。軍隊は、時に、国民を守るものでなく、国民を殺戮する機能をもつことを、今一度確認しなくてはならないと感じた。(SM)